ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

畑にクローバーの種を蒔いた。

畑に腐葉土を入れて、スギの枝を焼いた灰を入れて、油粕をまいた。

数週間まえに少しまいたのだが、撒き方がまちがって、やり直しだ。

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何度も耕した。レンゲを植えようと思ったが、間違えてクローバーの

種を買ってきていた。少し違うが、来年の春すぎると白い花が咲く。

 

先週のエッセイ教室に「貝原益軒を書こう」の原稿をだした。

貝原益軒を書こう 四十四              中村克博

 

 

 根岸は伏見奉行所の奥まった座敷で黒田家の京都屋敷を取り仕切っている家老の久野重義と対面していた。夕日は落ちていたが外はまだ明るかった。障子の閉められた部屋には二つの燭台に大きな蝋燭が輝いていた。二人は対座してすでに半刻ほどの時間が過ぎていた。家老から思いもよらない密命を聞かされたときは頭が真っ白になりそうだったが新たな状況は理解した。それでも根岸にとってあまりにも大きな役目でどうしていいのか皆木皆目見当もつかなかった。

「この話は大坂城代からきたのだが、徳川幕府としては一切のかかわりが無いとの体裁がいる。清が明の国を攻めているが、その明を助ける鄭成功は平戸の生まれで、かねてから我が国に援軍を求めている。さらにオランダは台湾にゼーランジャ城を築いてオランダ東インド会社のオランダ政庁が置かれているらしい」

「はい、そのような状況下で五百人もの浪人を密かに鄭成功が支配する厦門近くまで送り届けるのですが、ご家老のお話しでは清の船だけでなくオランダの戦艦にも襲われる心配があるのですか」

「詳しいことは何もわからぬ。ルソン(フリッピン)にはむかし高山右近が渡ったがその子孫たちがいまだに勢力を持っておるそうだ。イスパニア(スペイン)の政庁は日本の武士が大量に移動してくるのを何より警戒しておる。オランダだけでなくイスパニアの戦艦もでてくるやもしれぬ」

 

 障子の外はすっかり暗くなっていた。蠟燭の芯が音をだして炎が躍った。家老が立って蝋燭の芯をハサミで切りながら、

由井正雪の事件のあと我が黒田家に難儀なかかわりがあろうとは実のところわしにもわからなかった・・・」

 家老はもう一つの燭台に移動して蝋燭に鋏をあてた。

「貴殿は剣術の技量は確かだが数百の兵を従えることができるかどうか、こたびの役目は由井正雪の事件に関係した浪人たちの処分だがその中には多くのキリシタンがいるようだ」

 蝋燭の芯を切ると炎がおちついて輝いた。切った芯を懐紙にたたんで、

「この件は国内の問題ではおさまらぬ。率直に言えば、この件に黒田家がさらには徳川幕府が関与しないことが重要なのだ」

 根岸は家老の話を聞きながら役目の大切さは分かるが・・・ むなしいような、さみしいような心の中を感じていた。

 家老は席にもどって根岸を優しい目でみつめた。

「さいわい貴殿は正式には黒田の家来ではない。父の根岸兎角殿は長政公の直参であったが出奔して行方知れず、いまだ家督の相続はできておらぬ。いざとなれば黒田は関与なしで押し通すことになる」

 根岸はうつろな目をして家老の話を聞いていたが、きゅうに佳代のことが気になっていた。先刻、鴨神社にゆかりのある老女と対面しているとき伏見奉行所の山崎という武士から事態の急変を聞いて、その場に佳代を残したまま、ただちに家老のもとに駆けつけていた。佳代はいまだに老女の所に居るはずだ。口の渇きを感じていたが部屋には湯水の用意はなかった。

 根岸は居住まいをただして、

「ご家老、子細了解いたしました。この先は至誠を尽くしてお役目をはたします」

 家老は安堵したように疲れた顔をほころばせて、

「大坂から船に乗るまでニ三日の猶予はある。それまでに身辺の整理など身支度をするがよい。京に帰る暇はないが貝原殿には拙者から事情を伝えるようにしよう」

家老は腰の前差しを外して根岸の前に置いた。

「根岸殿、これは私の気持だ。筑前左文字だが我が家に伝わるものだ」

 根岸は両手をついて頭を下げた。

「かたじけなく、めっそうもないことで、このような大切なものいただくわけにはまいりません」

「沸がよくつき、匂口深く、地肌が明るく冴えて形がうつくしい。ながめると心がすまされて落ちつくようだ。遠慮せずもらってくれ。私の気がおさまるのだ」

 

 根岸は伏見奉行所を出て佳代のいる鴨神社ゆかりの屋敷に引き返した。通りの家々にはともし火がついていた。満月ではないが雲がなく空は明かるかった。歩く足がしだいに速くなっていた。門をくぐり玄関に入ると息がはずんでいた。一階の奥まったところに案内された。佳代は部屋に一人で待っていた。

「お戻りなさりませ。おつかれですね。お茶をお持ちします」

「お待たせしましたな」

「しんぱいしておりました。夕餉はまだでしょう」

 

 根岸は茶を飲んで、かるく湯漬けを食べて落ち着いた。佳代は斜向かいに座りその様子をニコニコして見ていた。佳代が膳を片付けたあと、先ほどの家老との話のいきさつを掻い摘んで話した。

「それでは、今宵のうちに伏見をたたれるのですね」

「そうすれば朝には大坂に着く、黒田の屋敷でなく幕府の奉行所でもない、指定された町家で人が待っておるそうだ」

「私は京には帰りませんよ。いっしょについていきます。今夜は枚方の屋敷に泊まりましょう。私もそこで身支度をします。それから大坂にまいりましょう」

 根岸は黙って聞いていたが、佳代の手をとって、

「聞き分けのない、無体なことを言いなさるな。鴨川を下る舟遊びの続きではないのだ。佳代殿はここに泊まって明日の朝ゆっくりして京に戻るのだ」

 

 根岸は奉行所が手配した二丁艪の早船に乗っていた。月は雲間に高く見え隠れしていた。屋形はあるのだが舳先に出て風にあたっていた。そばに佳代が座ってうれしそうにしていた。

令和三年九月三十日