ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

敷地内の水路の移動をしている。

林道の排水が敷地に入って水路の形が年々変わる。

このままでは家屋に被害が出そうだ。

f:id:glucklich:20210703114308j:plain
f:id:glucklich:20210703114405j:plain


 小説は公家の女人が襲われてつれさられた。

 

貝原益軒を書こう 四十             中村克博

 

講習堂の奥座敷で松永尺五に対面している久兵衛は公家の女人の一件をどう切り出そうかと思っていたら尺五はすでに知っていて案ずるまでもないと言う。それで、その手立てはいかにと尺五を見つめた。

 尺五は穏やかな顔で、

「まぁ、そのようにむつかしい顔をせず、茶のおかわりでも」

 言葉が終わらぬうちに障子が開いて先ほどの書生が茶菓子を、すぐあとに無地のひとえを着た娘が二人、白地の大ぶりな茶碗をはこんできた。

目の前に置かれている茶菓子と茶を運ぶ娘の顔を交互に見ながら、

「あ、恐れ入ります」と背筋をのばした。

「は、は、そのように珍しいものを見るような顔をして・・・」

 尺五は菓子盆からじかに茶菓子をつまんで口に入れモグモグしている。久兵衛はそれをしばらく見ていたが懐から懐紙を取り出して練り菓子をのせた。

「貝原殿は長崎でオランダや西洋の話を聞いてこられたそうで、いずれ詳しく教えていただきたいものです」

「えっ、滅相もありません。私は藩命で儒学を学ぶために講習堂に入門し薫陶を受けようとしております」

「貝原殿が今さら儒学でもありますまい。ここには全国の雄藩から多くの英才が集っております。わが国のことはもとより南方の国々さらに西洋の状況を知り、江戸幕府の今後の施策を探究することですね」

「は、はい、各地の産物の流れが幕府天領の大坂に集中しております。海外との交易を長崎に限り徳川家が独占するようです。貨幣の鋳造を江戸幕府だけの特権として全国に流通させます。大名の家族は江戸に住まわせ二年おきの参勤交代の定めがあります。全国の陸海交通路の整備がなされております」

 尺五は白地に貫入が多く口縁に緋色赤みの景色がある茶碗を飲み干して、

「そうですね。それに急がねばなりませんのがキリシタンの名残が色濃い江戸や大坂にたむろする浪人のあつかいですね。スペインのさらにイギリスの動きにも注意がいります。南方には多くの日本人が町をつくり浪人の武士はオランダやスペインの傭兵になって、とくに鄭成功の鉄人隊は勇猛で恐れられておるようです」

 久兵衛は茶碗を持つ手を膝に置いて食い入るように聞きながら、

「明国を攻め滅ぼす清国の勢いに幕府はどう対応するのでしょうか、台湾をめぐるオランダと鄭成功との関係は平戸と長崎にどう影響が及びますか。お聞きしたいことはおおくて私に役目が務まるか心配です」

「そうですね。鄭成功から幕府に援軍の要請が何度もきておりますが清国やオランダとの関係を配慮して動けません。平戸の松浦家からは小規模の武士団が、黒田家も博多の商人を通じて甲冑や刀剣、硫黄の密交易をしておるようですね」

「そうですか、幕府も多くの浪人を特にキリシタンを送り出したいのでしょうね。それで・・・ くだんの公家の女人のあつかいは、いかようになりますやら・・・」

 

 そのころ、

 根岸は舳先からしだいに離れていく賊の舟を見つめていた。なすすべはなかった。舟方は船尾にもどって竿を力いっぱい押しているが前方の舟はしだいに小さくなっていった。

 根岸のそばに立っている佳代が胸の袱紗包みを両手でかかえて、

「遠くになりましたね。それにしても、連れ去られるとき、手を引かれて守られるようにしていましたね。どうも賊の中に顔見知りがいたようです」

 そういえば襲われる前、公家の女人が屋形の障子窓を開けて近づく舟の方をのぞいていたことを思いだして、

「襲って来たのは、公家の女人を奪い返しにきたのかもしれんな」

「きっと、そうですよ。ちがいない。なら安心ですね」

 根岸は黙って遠のく舟を見つめていた。

「賊は周到な準備をしておったようだ。どのようにして我らの動きを前もって知っておったのだろうな。舟遊びの話は今朝になって宗州殿から思いついたように言われたのだが」

 佳代がそっと根岸の右手にふれて、

「手が腫れております。痛むでしょう。それに、足からの血は乾いているようですが傷の手当てをしませんと」

 袴の股立ちからたくし上げた裾をおろしながら、

「いずれにしても、伏見あたりまでくだってみよう。賊の舟が見つかれば手掛かりはあるやもしれん」

 岸にとめてある屋形舟が見えてきた。賊の舟よりはかなり小さいが根岸の指示で舟方はゆっくり接舷した。屋形の障子は開いていて誰も乗ってはいなかった。それでも根岸は乗り込んで屋形の中を調べていた。舟にもどってふたたび下り始めた。船足の速い屋形舟が追い越していった。旗印はないがどこかの藩の御用船のようであった。

 舟方が屋形ごしに大声で船首に声をかけた。

「のぼりの舟が数隻、つづいてきまあ~す。どうしますか~あぁ~」

 根岸は船尾にもどって舟方の横で思案するように、

「今だけでも三艘は見える。すべて止めることもできぬし」

「だいいち、のぼりの舟です。止まりませんよ」 

 佳代が根岸の右手を濡れ手拭で包みながら、

「このまま、伏見の湊にいそぎましょう。そこで三十石船に乗りかえて大坂につけば、あとは・・・ ああ、夢のようです」とうるんだ目で空を見上げた。

「そのようなことはできません。このままでは警固の役目不首尾です」

「お言葉ですが、そのようなことはありません。名前も分からないお公家の女人が事件にまきこまれて身の振りようがなかったのに、女人は御仲間に救われたのではありませんか、幸い至極なありがたい三方よしではありませんか」

「そうはいきません。武士が投網にからめられ刀も抜かずに散散打ち据えられて警固の人を奪われるなど、伏見の黒田藩邸で庭を借りて腹を切ります」

令和三年六月十七日