ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

貝原益軒を書こう 七十八 

貝原益軒を書こう 七十八 中村克博 検閲船は平戸の船との距離が一町ほどになると取舵で折り返した。折り返すと平戸の船の右舷に並んだがすぐに船足を速めて前に出た。 船長が松下に、 「弁天船の大きな一枚帆は扱いがむつかしいが幕府の船乗りは巧みな帆さば…

貝原益軒を書こう 七七

貝原益軒を書こう 七十七 中村克博 久兵衛は太秦の広隆寺の山門から境内につづく石畳におりた。空は暗くはないが薄い雲がおおって寒かった。小さな雨粒が漂うように降って羽織を濡らした。佐那は頭巾をかぶってきれ地の傘をさしていた。 佐那がうしろから久…

貝原益軒を書こう 七六

貝原益軒を書こう 七十六 中村克博 平戸の船は日が落ちる前に厦門の港を出た。外海に出ても天気はよく月の夜空が明るかった。西の風が白波をちらほら見せていたが波はおだやかだった。三人は甲板にある船室で夜具にくるまっていた。三人とも話はしないがいつ…

貝原益軒を書こう 七十五

貝原益軒を書こう 七十五 中村克博 それから数日がすぎて、厦門島の西の沖合で武器の積荷を鄭成功の船に瀬取りで移し終えた平戸の交易船は厦門の港に回航されていた。根岸と佳代それに松下は昨日からこの船に移動していた。海鳥の群れが岸壁で羽を休め高い空…

貝原益軒を書こう 七十四  

貝原益軒を書こう 七十四 中村克博 根岸たちは平戸の船での会合を終え、厦門の行きつけの茶屋でくつろいでいた。店の奥で五つの卓に分かれてたむろしている。日差しが西に傾いて陽は店の奥までとどいていた。十人以上の若い日本の傭兵たちは大きな声で話すこ…

貝原益軒を書こう 七十三 

貝原益軒を書こう 七十三 中村克博 あの日から五日たった夕方、平戸からの船が厦門に入ったとの知らせがあって、あくる日の朝餉のあと松下と根岸は部屋を出た。佳代も一緒だった。鱗雲が遠くに、青い空は澄み渡って、そよ吹く風は冷たかった。いつもの衛兵が…

貝原益軒を書こう 七十二

貝原益軒を書こう 七十二 中村克博 厦門の秋は涼しかった。天気のいい日が続いているが朝など日陰にいると肌寒い。根岸と佳代それに柳生の松下が行きつけの茶屋にいた。店の床は石張りで水を流して洗ったあとがまだ乾かず湿っていた。 長身の娘がいつものよ…

貝原益軒を書こう 七十一 

貝原益軒を書こう 七十一 中村克博 すっかり日が落ちていた。涼しい風がふいて茶室から母屋に移った久兵衛と佐那は二人で夕餉を頂いたあとだった。部屋は燭台の光で明るかったが庭に面した障子の外が白くなったので月が出たのが分かる。 佐那が障子を少し開…

五島から博多まで

五島から博多まで 中村克博 九州商船のフェリーは長崎港を朝八時すぎに出て五島の福江港に三時間ほどで着いた。フェリーを下りると車で福江港近くの石田城の跡に出かけた。五島氏一万二千石の本丸跡地は五島高校になっていた。海風が強い石段を女生徒が数人…

貝原益軒を書こう 七十  

貝原益軒を書こう 七十 中村克博 先日、南禅寺の金地院をたずねてからひと月ほどたっていた。お盆もすぎて、いくつもの夏の行事も終わって、セミの声がすずしくかんじるようになっていた。 久兵衛は松永尺五と久しぶりに対面していた。受講場所が二条城の近…

金地院の八窓席、袖壁の下地窓・・・

貝原益軒を書こう 六十九 中村克博 南禅寺の金地院には拝観する建物はいくつもあるが本堂だけを見学して外に出た。石畳のゆるやかな坂道を下りていった。人の通りが多くなっていた。木立の葉陰をとおして日差しがまぶしかった。旅籠や湯豆腐を食べさせる店や…

貝原益軒を書こう 六十八

貝原益軒を書こう 六十八 中村克博 久兵衛は下宿屋を出て四条の橋を渡っていた。下宿屋の娘が一緒だった。朝の日差しに鴨川のせせらぎが光って、岸辺に白い鳥が長い首をおり曲げてまどろんでいた。風がひんやりすがすがしい。 娘が下駄の音をはずませ欄干に…

貝原益軒を書こう 六十七

貝原益軒を書こう 六十七 中村克博 根岸と佳代は厦門にいた。鄭成功が厦門を支配すると明の再興を願う意を込めて、この地を思明州と改称していた。根岸は朝の食事のあと、思明城の中にある宿舎を出て町の通りを散策するのが日課のようになっている。 台湾の…

貝原益軒を書こう 六十六

貝原益軒を書こう 六十六 中村克博 尺五は話をつづけた。 「根岸殿は佳代さんといっしょのようです。二人は大坂からオランダが領有する台湾のゼーランジャ城に着いたことはご存知ですね」 久兵衛は自分の席にもどって尺五の話を聞いていた。 「はい、そのよ…

シャクナゲが咲いている。

シャクナゲが咲きはじめている。 敷地のまわりの杉の木を千本ほど伐採して日当たりがよくなっている。 日の光をたくさん受けるようになって葉っぱが黄色くなっているのがある。 大きな樹木の近くにあるシャクナ元気がいい。この花は日影が必要なのだろう。 …

思うまいとも思わない・・・ 中村克博 黒田家傳の柳生新影流兵法柳心会に入門して十二年ほどになる。初めのうちはいかに速く刀を抜くか、そして技をできるだけ多く身につけることに興味があった。ところが、それが根本、考え違いだと最近になって思うようになっ…

貝原益軒を書こう 六十五

貝原益軒を書こう 六十五 中村克博 母屋で朝餉をいただいて離れの自室に戻って講習堂に出かける準備をしていた。 下宿の娘がお盆に湯呑を乗せてやってきた。 縁側に膝をついてお盆のまま畳に置いた。 「ご飯を食べて、お茶も飲まずに・・・ 今日はお急ぎですか…

貝原益軒を書こう 六四 

貝原益軒を書こう 六四 中村克博 久兵衛は午前中の勉学を終え、持参した弁当を同僚の受講生たちと一緒にいただいたあと一人で講習堂の裏山に行った。裏山の竹林では年老いた下人が頬被りをして孟宗竹の間伐をしていた。切り倒した孟宗竹の枝を打ち、集めて焚…

貝原益軒を 書こう 六十三 

貝原益軒を 書こう 六十三 中村克博 ゼーランジャ城に帰った根岸は佳代の部屋にいた。佳代が市場で買い物をした食料品の整理を手伝っていた。佳代が使っている部屋は二間あって一つは広く、竃があって煮炊きできるようになっていた。根岸は佳代に言われるま…

貝原益軒を書こう 六十二

貝原益軒を書こう 六十二 中村克博 朝日が高くなるほど行き交う人は多くなった。にぎやかな町を出て、すぐに新しい長屋が何列も並んだ居住地が見えてきた。煙がただよっている。荷車や人の動きが見える。このオランダが提供した居住区の中ほどに一軒だけ塔屋…

貝原益軒を書こう 六十一

貝原益軒を書こう 六十一 中村克博 根岸と柳生の松下はでゼーランジャ城を出て小舟で対岸の街に向かっていた。小さな帆掛け船が向かう方に朝日が低く眩しかった。佳代が根岸に寄り添うようにしている。船べりを横に長く渡した板が椅子になって座っていた。舟…

膝が痛かったが、やっと治った。

先週の金曜日、エッセイ教室に行った。 小説の「貝原益軒・・・」は書けなかったので、 膝が痛かった三ヶ月をエッセイにした。 膝が痛かったが、やっと治った。 中村克博 七月の終わりころ右の膝を傷めた。歩くときに痛いので一カ月半ほど杖を突いていた。ま…

貝原益軒を書こう 六十

貝原益軒を書こう 六十 中村克博 日は傾いて竹林からの風が涼しい。いくつもの鳥の声がする。久兵衛は尺五の問いにこたえようとしていた。 かさねた手を膝に戻しながら、 「幕府は大量の武士を国外追放する難事を黒田藩に命じ、黒田藩はその大役を根岸殿一人…

貝原益軒を書こう五十九 

貝原益軒を書こう 五十九 中村克博 根岸はオランダの船に下りると、すぐに船長に案内されて佳代のいる部屋にいそいだ。そのあいだに、副官の指示で船は大型ジャンク船から離れていった。風はしだいに強くなって雨が降っていた。帆を上げると船足は速く大型の…

貝原益軒を書こう 五十八

貝原益軒を書こう 五十八 中村克博 部屋から出て右舷側で起きている騒乱を見た大型ジャンク船の船長とその副官、根岸、それに鄭成功の傭兵の頭目は中央の甲板に駆け下りた。硝煙が立ちこめて射撃音が耳をつんざく。銃を撃つ者と火薬を入れ弾を込める者との役…

 貝原益軒を書こう 五十七 

貝原益軒を書こう 五十七 中村克博 佳代は一人で船長室となりの小部屋にいた。衝撃的な恥辱をくわえられ心身が消衰しきっていた。今から明の大型ジャンク船に行向かうことは告げられていた。そこに行けば根岸と会える。どのような顔をして根岸に会うのか、ま…

貝原益軒を書こう五十六

貝原益軒を書こう五十六 中村克博 航海は順調で何事もなく夜がすぎて朝をむかえた。船はさらに南下して蒸し暑く根岸はよく眠れなかった。船室を出て船尾甲板から遠くの海をみた。北を向いても南を見てもどこを向いても海しか見えなかった。西からの風が汗で…

貝原益軒を書こう 五十五 

貝原益軒を書こう 五十五 中村克博 佳代は叫んで暴れて抵抗したが、すぐに力がつきた。うつろにされるがまま静かになった。涙だけが流れた。近くに太った水夫が横になって倒れていた。先に佳代から懐剣を脇腹に差し込まれた髭面のぶよっと太った悪党だった。…