ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

午前中はエッセイ教室、午後の居合はコロナでお休み・・・

数日、雨がふている。今日も朝から小雨だ。

天神のエッセイ教室に出かけた。駐車場を出てマスクをしていないのに気づいた。

いままでも何度かこんなことがあった、その度にコンビニでマスクを買った。

今日は時間がないし面倒なのでマスクなしで街を歩いた。

ビニール傘をさしているので、さほど気にならなかった。

コロナのためか、教室には参加者が少なかった。

すでにワクチンを打った人が何人かいた。

僕は打たない。

ずいぶん前に、申し込み表は届いたがゴミ箱に捨てた。

妻が拾ってきて、どうして捨てるのかと聞く、

「僕は、アメリカのトウモロコシじゃないよ」といった。

 

 

貝原益軒を書こう 三九             中村克博

 

 佳代は目を丸くして根岸を見上げた。根岸は自分の口から出た言葉に戸惑った。

「えっ、根岸さま、いまなんと・・・ それではこのまま大坂まで、一緒に下って、くださるのですね」

 根岸は虚を突かれたように、

「い、いや、そのようなことは、できません」といった。

 思いがけない舟遊びに付き添って、ぼんやり楽しんでいた夢想の中に佳代の言葉が紛れ込んで、うかつにも、あらぬことを口にした。その不覚を恥じる暇もあたえず佳代が、

「あの方が死んでもかまわないのですか、私がどうなってもいいのですね」

 根岸は黙っていた。かなたに東寺の五重塔がそびえていた。高くなった朝の光に赤く輝いていた。

「根岸さまは武士ではありませんか、目の前の身近なおなごの命を、それに、想いを寄せている私の身の上を守らなくて恥ずかしくないのですか」

だんだんと声が大きくなった。

 根岸は黙って遠くを見ている。先ほど通りすぎていった速足の舟が岸辺に止まっている。渡り板が掛けられて人が下りている。船着き場でもないのに、根岸は不審を感じた。根岸は舟方を見た。舟方は先ほどから二人の話が聞こえていて、キセルをくわえた口元が笑っている。

根岸が舟方にたずねた。

「あの舟は、あのようなところで人を下すのはなぜだろうな」

「なぜでしょうな。舟底を川床に着けて竿を差して、おなごだけが下りるようです」

 佳代がチラリと遠くの舟をみて、すぐに根岸にむかって、

「もう、話をかえないで。根岸さまは卑怯者ですか」

 舟方が眼を細めて遠くの舟を見ながら、

「おかしいですな、投網を取り出して、この辺りでは投網はご法度です。それに渡り板を舟に上げずに落としましたな」

根岸が佳代を見て、やさしく肩にふれて、

「屋形におもどりください」といった。

 公家の女人が屋形の障子窓を開けて近づく舟の方をのぞいている。

 根岸がもう一度、言った。

「おねがいです。屋形にお戻りください」

「いやです」

 根岸が懐から二十両が入った袱紗を取り出して、

「この金子を持って、屋形の中に入ってください」と言った。

 佳代が袱紗の重さを確かめるようにして手に取った。舟は川の流れとともにゆっくり近づいて不審な舟にいる男たちの顔の表情が分かるほどになっていた。

 舟方がしゃがれ声を大きく、

「六人いますな。得物は三人が五尺ほどの棒、残りは素手です」

「五尺の棒・・・ 乳切木にしては少し長いが、鉄の球が仕込んであるかもしれぬ」

股引の盛り上がりからそれが分かるほどの筋骨のたくましい男が投網をこちらに投げようと構えている。舟方は左岸によって相手の舟から離れようと竿を使った。しかし右岸近くにいる舟が川の中ほどに押し出して距離をちぢめてきた。このまま近くなれば投網がこちらに届く。

「佳代殿、間に合いません。屋形の中へ早く」

佳代は袱紗包みを大切に胸にかかえて近づく舟を見ている。投網が投げられた。大きな輪が朝日に照らされて頭上に広がってきた。根岸は佳代の肩を抱えるようにして屋形に入れた。投網が舟方と根岸の頭から被さったのは同時だった。佳代は舟床の畳に突っ伏した。小判が音をたてて散らばった。

からまった投網を屈強な男が引き寄せると舟方が竿を持ったまま根岸に倒れてきた。根岸は動きができない。舟は強く触れ合って根岸の乗る小舟は大きくゆれた。佳代が這いつくばって小判を拾い集めようとしていた。舟方は、ずれ落ちた菅笠が顔を覆って網の中でもがいている。根岸はどうにか脇差を抜いて網を切ろうとした。そのとき、賊が二人乗り込んできた。乳切木がうなりをあげて振り下ろされた。カシの棒だった。根岸は頭をかばった。右手の脇差に、腕に二度三度と所かまわず打ちつけられた。根岸は網がからまったまま屋形の庇で身をかばった。バッシ、バッシと打ち据える棒の音と舟方の悲鳴が聞こえる。

賊の数人が屋形の障子窓から乗り込んで公家の女人を連れ出した。手を取って丁寧に扱って賊の舟に乗せた。佳代は呆然とそのようすを見ていた。根岸は屋形の庇に隠れて振り下ろされる乳切木はよけたが、代わって乳切木の突きが襲ってきた。カシの棒には鉄の石突がつけてあった。投網の中で、おまけに舟方の手足が邪魔で石突をかわせない。顔はかばっても胸や腹や足は避けようがなかった。

襲撃がおさまって、どうにか屋形の中に入って網から出たときには賊の舟が離れようとしていた。舟方が網から抜け出すと頭も顔も血だらけになっていたが、いきなり船首にむかって這うように走った。舳先にあった鉄の錨を横殴りに投げた。錨はまっすぐに飛んで賊の舟の船尾に転がり込んだ。舟方は慣れた手つきで碇の綱を係留支柱に巻きつけた。綱がビンと張られて水しぶきが飛んだ。

賊の舟が根岸たちの舟を錨綱で引っ張って進む格好になった。賊の一人が錨綱を引き寄せて錨をはずそうとするが、こちらから舟方がそうはさせじと錨綱を勢いをつけて引っ張った。賊はたまらず綱から手をはなした。そのやりとりを根岸がそばに立って見ている。袴の股立ちを高くとって脛が見えるほどたくし上げている。

舟方が渾身の力で綱をたぐり寄せ始めた。少しずつ賊の舟との距離が近くなってくる。根岸が舳先の先端に移動した。舟方の唸るような掛け声がして舟の距離がさらに近くなる。根岸が刀を抜いて舳先から乗り移る体勢になった。刀を持つ右手の甲が腫れ上がって青く黒ずんでいる。

賊も数人が長脇差を腰に差している。乳切木を手槍に持ちかえた者もいた。賊が碇綱を刀で切ろうとした。打ちつけても綱がはずんで切れない。押しつけてゴシゴシと切りおとした。舟はみるみるはなれていった。

令和三年六月三日