ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

バンクシー展に行った。

午前中のエッセイ教室で参加者の一人がバンクシー展に行ったことを書いていた。

バンクシーなるものを初めて聞いた。興味がでたので教室が終わって見に行った。

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天神のアップルストアからすぐだったが、探し回って人に聞いてやっと着いた。

チケットは窓口で買うと2,200円、スマホで買うと1,800円だった。

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場内は自由に撮影できた。

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世界中の街角で、人目を避けて、型紙とスプレーで短時間で描くらしい。

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型紙を使うらしいが、同じ絵もあちこちの描くようだ。

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ベトナム戦争のとき被害に遭った少女の報道写真を使ったのもあった。

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会場から出てすぐに、見覚えのあるマンションがあった。

もう30年、いや、もっと前、ここに住んでいたバンクシーのような先生をよく訪ねていた。

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江戸時代からつづく醤油屋が新しい建物になっていた。江戸時代と同じ手法で作られている小瓶を買った。向かいの古本屋にも入ってみた。

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街の様子がどんどん変わっていくようだ。

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なつかしい通りをふり返ってながめた。

うろうろしていたら、車を停めた駐車場のビルが分からなくなっていた。

 

午前通のエッセイ教室に提出した原稿は・・・

貝原益軒を書こう 四十三                中村克博

 

 玄関の隅で舟方が佳代をかばうように前にでた。根岸は腰を落とし刀の柄に手をそえたまま、ゆっくり後ずさりして縁台から下りた。手槍を持った二人の手練れから同時に突かれては面倒だろう。ゆっくりさがりながら玄関の敷居までくると刀の柄から手をはなした。落とした腰をもどして姿勢をただすと襟元から棒手裏剣を取り出して顔の横に高く構えた。棒手裏剣は右手の中指にかるく重ねられ掌は手槍を向けている二人の中間にさだめられていた。この距離なら左右どちらの的にでも確実に突き刺さる。手槍の二人は表情を変えず構えを崩さずに互いの距離を少しあけた。

 佳代は舟方のうしろから首をのばして覗いている。舟方が根岸の次の動きを予測して懐の匕首を抜いた。舟方が頭に描く光景は一瞬だが鮮明だった。根岸の棒手裏剣が手から離れて飛ぶ。向かって左側の男の首の付け根に棒手裏剣が吸い込まれる。それと同時に右の男が突進して手槍を繰り出し根岸の腹に突きだした。ところが、はたして、そうはならなかった。

そうではなく、いきなり佳代がかん高い大声で、

「おやめください」と叫びながら根岸の前に飛びだしたのだ。

そして縁台の上がり框に突っ伏した。これには根岸も手槍の男たちも面食らった。舟方は予想もしなかった出来事に呆然となった。

すると、明るい吹き抜けの二階から何かが降ってきた。根岸が一瞬上を見た。玄関は吹き抜けで見上げた高みは夕日をうけて眩しかった。二階の手すりに人影が見えた。そこから、いくつもの赤紫の花が輝いて降ってきたのだ。音もなくいくつもの花が佳代と手槍を構える男たちのあいだに落ちてきた。細長い緑の葉は舞うように菖蒲の花を追うようにひらひらと松の板張りに散らばった。

しわがれた老婆の声がした。

「双方ともひかえなされ」

 しわがれた声は重厚さもなく威圧するようにも聞こえないが崇高で抗えない響きがあった。手槍の男たちが顔も上げずに槍の穂先を下げて後ずさりして奥に消えた。根岸は、しわがれた声にうながされるように棒手裏剣を襟元に納めた。階段をゆっくりと足取りを確かめながら白髪の髪も薄い小柄な老女が年若い女に先導されておりてきた。老女が歩く先を清めるように年若い女が菖蒲の花や葉を手に取った。老女は縁台の中ほどに来ると片膝を突いてすわる佳代に向かって声をかけた。

翡翠の十字架の落とし主をおさがしですね、どうぞ、それを見せてください」

 佳代が手に持っていた十字架を差し出すと年若い女が重ねた両手で受け取った。老婆はそれをしげしげと手の上で見ていたが、

「この十字架はまぎれもなく私の孫娘にさずけたものです」といった。

 佳代はその言葉に一瞬混乱したのか目を大きくひらいた。そして老女のなごやかな顔を見つめた。佳代の目から大粒の涙がながれた。根岸が佳代のそばに来ていた。

 老女が根岸を見て、

「どうぞ、お上がりください。孫娘に会ってください。お世話になったお礼も言わねばなりますまい。どうぞ、奥の部屋においでください」

 根岸は老女の話から、探している公家の女人は拉致さられたのではなく実家の手の者たちに取り戻されたのだと理解した。

 根岸は刀を鞘ごと腰から外して年若い女に渡した。老女がそれを見て、

「そのような重たいものを、ご自分でお持ちください」と言った。

根岸は言われたとおりにした。右手で刃を下向きに逆手に持った。舟方が玄関から外に出ようとした。根岸が声をかけた。

「そなたも、一緒に来てくだされ」

「いや、私はこれまでの話を一刻も早く宗州様にお伝えしたく思います。お嬢様のことが気がかりですが、ありのままをお話しするしかありません」

「・・・、そうか、それがいい、では、そうしてくだされ」

「では、これにて失礼を致します」と言って舟方は足早に立ち去った。

 

 二階の部屋に通され、まもなく薄く点てられた抹茶がだされた。床の間には水盤に水が張られていた。壁に短冊がかかっていた。

 佳代が腰を浮かして、かな交じりの草書をながめていた。

根岸も見ていたが、佳代に何と書いてあるのか聞いた。

五月山 こずゑをたかみ 時鳥 なくね空なる 恋もするかな、とよめます。万葉集だとおもいます」と寂しそうに言った。

 

 しばらくして廊下に人の気配がした。障子が少し開いて年若い女の顔が見え、老女が部屋に入って床を背にしてすわった。その後から公家の女人が部屋の入口にすわって深々とお辞儀をした。障子が外から閉じられた。

 老女は待たせたことを詫びて公家の女人に声をかけて横に座らせた。

「先ほどは争い事を静めようとうろたえました。ちょうどこの部屋で花をいけようとしておりましてな、咄嗟にあのようなはしたないことを、お恥ずかしい限りです」

 根岸は背筋を伸ばして頭を下げた。

「いえいえ、こちらこそ短慮な無礼をお許しください。大事になるところお助けいただき誠にありがたく存じます」

 老女は横を見て、

「この娘は私の孫でしてな、先日の大徳寺さんでの茶会の帰り悪者に襲われ、その折お助けいただきましたのに、筋も通さずに奪い返すなど手荒なことをしながら申し開きもできません。お許しください」

 ゆっくり丁寧に話す老女の京ことばの響きを根岸は耳にしながら、公家の女人は鴨神社につながることを理解した。

 老女の横に座る公家の女人は目を潤ませて、

「このたびは一方ならぬお世話になりまして、事情もお話しできず、申しわけもありません。おゆるしください」

 根岸は丁寧な答礼を返して、

「しかしながら公儀からの刺客が差し向けられ、由比正雪の騒動にかかわっていたお公家様がおる事実、それが鴨神社とどのような関係があるのかお答えください」

 佳代は驚いたように根岸の横顔をみた。老女が話せないと言っていることを無視してあえて問いただそうとしている。

 老女は困惑顔を取り繕うともせずに、

「困りましたな、ご存知の通り事態にはご公儀と雄藩が複雑に絡んでおります。背景には行き場のない浪人問題とイエズス会の影があります。しかし、我らがそれを知ったとて関わりようもない雲の上の手の届かない策動です。ですが、そのために火の粉が我が身にかかれば自分で取り払うしかないのとちがいますか」

 根岸は興味深げに聞き入っていたが、

「なんと、それでは由井正雪の騒動にキリシタンがかかわっておったのですか、大徳寺での茶会に参加されていたお孫様は翡翠の十字架をお持ちですが、それでは・・・」

 老女は、いよいよ困った顔をして、

「信長公の時代にやって来たキリシタンポルトガルイスパニア(スペイン)のイエズス会宣教師です。鴨神社の賀茂氏秦氏奈良時代に西のはてから唐の国を経てやまとに渡来した民で秦氏は古代の東方キリスト教、唐での景教です。ザビエルより一千年も前のことです」

 佳代が自分の胸元から十字架を取り出してながめながら、 

「それでは、私が身につけている十字架とお返しした翡翠の十字架とは教えがちがうのですね」

 老女はほとほと困った顔をして、

「おなじ教えが西と東に分かれて伝わったのですが、日本に来たのは千年以上もむかしのことですし、いまでは我が神道にすっかりとけこんでおります」

 公家の女人は翡翠の十字架をたたんだ袱紗にのせて膝の前に置いた。

「大切な十字架を失くして周章狼狽しておりました。それを見つけてくださり、それが手掛かりに、こうしてお会いできるなど・・・」と言いながら泣きだした。

 玄関のほうで大勢の人の出入りがあり、何やら慌ただしい気配がした。廊下を急ぎ足で側女が近づいた。障子の外から声をかけた。

「伏見奉行所の山崎様が警備のお侍を大勢つれてお見えです」

「山崎様が、お一人でなくお供を連れて、なに用で・・・」

「はい、先ほど家の者がこの騒動を知らせに奉行所に走ったようです」

「そうであったか、それは気が利きすぎて早まったようだが、ま、よい山崎様だけをここにお通ししてくだされ」

 

 伏見奉行所の山崎という武士がやって来た。年若い女が障子を開いた。帯刀した山崎がいた。老女が声をかけた、

「これはこれは、山崎様、家人が手違いをしたようで、お呼びだてして申し訳ありません。こちらのお二方は孫娘がお世話になった知り合いで、話がはずんでおります」

山崎は廊下に立ったまま部屋の様子を確かめていた。老女の話が終わると廊下に正坐した。左手は鯉口を握り鍔に親指をかけ右手で三つ指をついて根岸を見ながらお辞儀をした。

「伏見奉行所の山崎です。御邪魔いたします役目ゆえお許しください」

 根岸が向きを変えて両膝に手を乗せてお辞儀をした。

「九州からまいりました。筑前黒田家の根岸です。ご足労おかけいたしました」

 山崎は根岸の挨拶を受けて驚いたように、

「なんと、何ともうされた。黒田家の、貝原殿に警固で同道された。根岸殿ですか」

「はい、私はその根岸ですが・・・」

「ただいま、奉行所で黒田家のご家老が貴殿を待っておられます。鴨川を舟遊びする女人二人の警固に出ておいでと伺いましたが、ここにおいででしたか」

 根岸は力が抜けたように首をかしげて、

「そうですか、急にまた、どんな御用でしょうな」

山崎は老女の顔をみて、

「よろしければ、ご隠居様のお許しをいただければ、とり急いで引き返し根岸殿の所在をお知らせしようと思います」。

                                  令和三年九月二日