ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

昨日の午前中は、エッセイ教室、根岸の暗殺剣、脇差の片手打ち

家のまわりは、桜が見ごろだ。

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ニ三日できゅうに咲きだした。

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ヤマザクラもモッコクの咲いている。

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ツバキも桃の花も咲いている。

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今日の午前中からお茶の稽古だった。花はソメイヨシノ、点前は徒然棚。。

桜の花は、茶席には使わないそうだ・・・・・・

 

 

 

貝原益軒を書こう 三十五             中村克博

 

 

 家老が奥の部屋に向かって声をかけた。襖が開かれて控えていた若い武士が顔を出すと、部屋を下がって、沙汰するまでこの近くに誰も近づけないように言った。襖は閉めずに開け広げられた。庭の風が部屋の奥へ流れていった。

 家老が立ちあがって床の間の戸棚から風呂敷包みを取り出した。両手で抱えるほどの大きさだが、かなり重そうであった。もとの場所に座ると二人に近くに来るように言った。

「ここに金で百両ある」

 二人は姿勢をただして包みに目を向けた。

「これを大徳寺龍光院に届けてもらいたい」

 家老は庭に目をうつした。朝の陽が登り、長く張り出した軒先に隠れると庭の景色がよく見えていた。家老は少しの間それを見て、なにかを熟慮しているふうであった。

龍光院についたら、僧が離れの庵に案内する。部屋に通されると、三人が待っている。老僧が一人、壮年の公家が一人、それに、わが黒田家の侍が一人だ」

 そこで、久兵衛が「はっ」と声をだした。

 家老がうなずいて話をつづけた。  

「黒田の侍は、馬廻り七百石、そなたたち二人と顔見知りでもある」

 すぐに、久兵衛が、

「えっ、その方は、どなた様ですか」

「それは、龍光院で部屋に通されればわかる。よいか、百両は風呂敷のまま、老僧の前に置くのだ。包みの中を、老僧があらためる。風呂敷をほどき、紙箱の中から百両を取り出して確かめる」

 久兵衛は姿勢をただすようにして、

「はい、心得ました」といった。

 さらに家老は久兵衛を見すえて、

「百両の風呂敷は老僧の前、三尺ほどに置くのだ。よいか、三尺ほどはなして、な」

 家老は根岸に顔を向けて、ゆるやかな口調で、

「通される部屋は茶室ではない。脇差の帯刀は許される。床の前に公家が座っておるはずだ。両脇に老僧と黒田家の侍が座っておるが、どちらが右か左か、それはわからんが・・・」

 そこまで言って家老は根岸の言葉を待った。

 根岸は、了解したように頭を少しだけ下げた。

 家老は根岸の方に、少し膝をにじらせて、声を落としていった。

「黒田の侍は、小鳥(からす)の馬場にある柳生新影流の道場で有地元勝から免許皆伝までもらっておる。かなりの使い手だ」

  根岸は両手を膝に置いたまま深く頭を下げ、

「ぞんじております。道場では何度か稽古の様子を拝見しております」

「そうか・・・ して、どのように見た」

「は、剣さばきが、のびのびと、うつくしく、気高いお人柄を感じました」

「斬れるか・・・ 」

「はい」、呑み込むようにこたえた。

 そこで、久兵衛が不審そうに、

「あの、なんのお話ですか、百両、お届けして・・・」

 家老は久兵衛を見て、

「それからが、大仕事なのだ。老僧が百両を検分すれば黒田の侍も公家もその様子を見るはずだ。そのとき、まず黒田の侍を、次に公家を仕留めればならん」

「えっ、そのような、黒田家の龍光院で黒田の家臣が黒田家の重臣を主命で斬るなどと、そのような、なぜです」

「訳を話せば、ながくなる。今は一刻を急いでおる。首尾よく、ことが、すめば、あとは老僧の指図にしたがえばよい」

 根岸は両手をついて深くお辞儀をした。それを見ていた久兵衛は、あわてて両手をついてお辞儀をした。

 家老が二人をさとすように、みじかく話した。

「柳生家から黒田家に派遣された有地元勝は大野松右衛門の養子であった。大野松右衛門は柳生石舟斎の高弟で柳生の姓まで、さずかっておる。今の黒田家、柳生新影の道場は有地元貞が継いでおるが、江戸の柳生につながっておる。此度の事件の詳細は有地元勝から聞いておるのだが、それは江戸から伝わっておるのだ」

 久兵衛が頭をあげた。家老がつづけて、

「お家のため、これしか方法がない。失策はできぬが、あとは龍光院が、うまく収める手はずになっておる」

 根岸は気づいていた。この部屋に通されたとき、それまで部屋にいた人の気配が残っていたが、それは有地元勝だったのだ。さすれば、暗殺の指示は江戸の柳生から有地元勝を通じてでている。しかし、なぜ、暗殺せねばならないのか、根岸にはわからない。わからない、根岸はそれでいい、と思った。

 久兵衛と根岸は黒田家の屋敷を出て北に二刻ほど歩いて大徳寺についた。案内されて黒田家の塔頭龍光院につくと、若い僧が待っていて、すぐに庭の路地を歩いて別棟に案内された。玄関口に孤篷庵との木彫りの掛額があった。二人は大刀を預けた。さらに、いくつかの部屋をとおって奥まった十畳の部屋についた。床を背にして無表情な大柄な公家が座っていた。根岸から見て、その右に、おだやかな笑みの老僧がいた。左には黒田の侍がいるはずが、いなかった。

久兵衛が正面の公家に深々と頭を下げて、黒田家からの届け物を持参した旨の挨拶をした。久兵衛が風呂敷包を老僧の前に差し出した。老僧は品物に手が届くところまで近づくと、風呂敷包を引き寄せた。

「こんなに重いものを黒田屋敷から下げて来られたのでしょう。しんどいことでしたな。黒田のお侍は、いまお手洗いに行っておられます。じきに、おもどりです」

 久兵衛の左後ろに離れて控える根岸は、両手をついたままで「は、はぁ~」と声を発した。なんとも、根岸らしくない、間の抜けた大仰な声だった。

公家との距離は一間半ほどあった。左足を上に半跏趺座に座っている。根岸の声を聞いて口元がほころんでいた。

 老僧が風呂敷をほどこうと、手をかけているのを止めて、

「お手洗いが、えらく、なごうおすな」と障子ごしの明かりをみた。障子の向こうは廊下のようだ。公家の右にいる老僧の後ろは和紙を張った荒壁、東向きで引き違いの障子窓がある。朝の日差しが、まだ斜めから差して明るかった。

 久兵衛が老僧にたずねた。こわばったような、堅い声だった。

「この建物は数寄屋造りのようですが、草庵のようでもありますね」

「そうですね。小堀遠州公が建立されました。思いのこもった工夫があちこちにありますな。入り口にあるご自筆の号、孤篷は一艘の苫舟の意で春屋宗園禅師から授かったものです」

 

 黒田の侍がもどってきた。大刀を右手に持っている。公家の横、根岸の左前方に座り、刀を置いて両手をついた。遅くなったことを詫びた。

「貝原殿と根岸殿が使いに来られるときいて、お二人がお戻りになるとき、拙者も同道して黒田屋敷に帰ろうと、支度をしてまいりました」

黒田の侍には屈託がない。むしろ根岸を見て安堵したように見えた。

 根岸が「おひさしぶりです」と頭を下げた。

久兵衛は心臓が高鳴っているのに戸惑った。左の位置にいる相手に、下からの抜き打ちでは斬りにくい。それに、間合いが遠すぎる。と久兵衛は思った。

老僧が風呂敷の中の紙箱を開け金貨の包みを一つ取りだした。左手にのせたが、数枚の小判が滑り落ちた。小判が重なって落ちた音が聞こえると、ほぼ同時に根岸が右ひざを前に立て、滑るように前に進んで脇差を斬り上げて公家の喉を深く断ち切った。刀をかえして左の侍に片手で袈裟に斬り込んだ。侍は、同時に大刀をとって右ひざを立て根岸の右わきに飛び込んだ。刀を抜く暇はない。柄を上に鞘ごと脇差の切っ先を受けた。鞘の半分が切り裂かれたが、黒田の侍は立ちあがって抜き身を振りかぶり、左足を引いて根岸の真っ向を斬り下げた。根岸は柄頭を引き上げ大刀の刃先を受け流して、侍の顏に触れるほどに立ち上がった。久兵衛には二人の流れるような動きは眼にとまらないが、刀と刀が激しく擦れ合うたびに火花が飛んでくるようで、思わず目をとじた。

戦う二人は離れた。黒田の侍が息をはずむことなく、

「主命のようだな。腹を切るわけには、いかぬのか」と言った。

「主命は奉じるのみで、ございます」

 せんかたなしと、黒田の侍は正眼から左肩を前にして逆手の脇構えになった。

根岸は、脇差を右肩にのせるように肘をあげ、左手は胸の前で手刀にした。床の前では公家が死にきれず、喉からヒュー、ヒューと空気が漏れる音を出した。根岸の左手が動いて襟元にふれるや、はじけるように手裏剣が飛んで黒田の侍の顔面、左目の下に突き刺さった。顔が上向いた。根岸が踏み込んで袈裟に斬り下げた。黒田の侍は、うずくまるように崩れ落ちた。

令和二年三月十八日