ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

この日からエッセイ教室に行くことになった。

天神の西日本新聞TNC文化サークルの「きらくにエッセイ」


幽霊といえば・・ 僕もいちど見たことがある。


目が覚めると蝉の声がしていた。空はすっかり明るかったが日の出までには時間があった。身支度をしてお茶も飲まずにバイクで家を出た。

いい天気だった。八木山の北斜面には天平の昔から八十八ヶ所の霊場をつなぐ遍路道が山間を縦横に通っている。道幅に車線はないが舗装してあるしガードレールもついている。その林道の一つに入ってしばらく走っていた。木が茂って奥深いお遍路道に朝の明かりは届かない。ヘッドライトの光を頼りに走った。時おり杉林の草陰にお地蔵さんが顔を出す。暗くてよく見えないがヘルメットのゴーグル越に目を凝らすとお地蔵さんの周りに人形が沢山置いてあった。赤い帽子、いろんな色のワンピース、長い髪、和装の着物姿の人形もいるようだ。薄明かりの中に人形の目がみんなこっちを向いているようだ。そんな視線を感じながら走った。背中がゾクゾクしていた。

 道の登りが少しきつくなった。フォーサイクルエンジンの静かな音はギアの選択が少しアンダーパワーになったのを知らせていた。この音だけが自分の味方の様な気がしていた。小鳥の声はしていたのだろうが、もはや聞いていなかった。生き物の気配もしない。道の前だけ見て林の中は見ないようにして走った。まもなくして緩やかなカーブにさしかかった。杉林が少し途切れたところに、そこだけ光がさして人がいた。女の人だ。ぼんやり全体が薄く見える。光がさして明るいのに体中がうっすら白っぽくて、動かずに立っている。僕は、まばたきも出来なかった。バイクの速度は落としているが時間のかかる距離ではない更に近くに来た時、気づいた。女の足の部分が、ひざから下がない。予期しない情景をを処理できず頭の中が固まった。

 ヘルメットの中で髪の毛が逆立つのがはっきりわかった。ギアを一つ落として右手を思い切りひねった。高性能エンジンの音は忠実に木々に反響して、脚のない女の前を一気に駆け抜けた。その一瞬に僕の目は見た。はっきり見た。女の人は戸板に描かれた観音様だった。長い年月のあいだ雨や風や日照りで描かれた姿が薄くなっていたのだ。始はきっと足もあったのだろうが雨泥の跳ねがいつの間にか消してしまったのだ。

 あの時引き返さなくて良かった。戸板を確認したので僕は幽霊などいないと今も確信している。この話は、もう随分前の事だ。たぶん夏の初めか秋のころだった。バイクが好きであの頃は気が向くとよく近場の山道を走っていた。今はもうバイクはない。まだ乗れるが年齢を考慮して止めにした。

この幽霊の文章は2011年に文化サークル「気楽にエッセイ」の教室に提出した。

初めに書いていた文章を参照に3年後の2011年8月5日に推敲して間に合わせた。