ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

ヤマモモを収穫した。

ヤマモモの実がたわわに赤く色づいて、

熟した赤黒い実は枝がゆれるとポトポト落ちてしまう。

梯子をかけて、ていねいに、実が落ちないように収穫した。

これまで、毎年、見るだけで、勿体ないことをしていた。

 

枝の上で実を取りながら、ときどき口に入れた。果汁があふれて、なんともウマイ。

収穫は一回に時間、二日かかった。

夕食のとき、ジュースを飲んだ。はじめてだった。

こんなオイシイ飲み物があったのかと思った。

 

先週の金曜日はエッセイ教室だった。

小説の原稿はきわどい描写があって、むつかしかった。

貝原益軒を書こう 五十四                  中村克博

 

身を潜めている船倉は蒸し暑い。佳代は外套を脱いだ。船が岸壁を離れるため、舫い綱を投げ、渡り板を収納する音が聞こえる。人が走り大声が聞こえる。掛け声がする。帆を上げるようだ。佳代は小さな窓をのぞいた。先ほどまで佳代が乗っていた鄭成功のジャンク船が見える。艀から硫黄の積み込みをつづけていた。柳生の女たちは佳代がいないことに気づいているはずだ。逃げ出してとても悪いことをしているような気持ちになった。

佳代を乗せたオランダ船は湊を出た。半島をまわり帆がはらむと船足が早くなった。

足音がした。

佳代は荷物の影に隠れた。胸元の懐剣を腰の後ろの帯の中に押し込んで、片手ですぐに抜けるようにした。風呂敷包に二十両の小判があった。大坂で鄭成功のジャンク船に乗ってすぐに柳生の女に押収されたが外洋に出てまもなく返却されていた。

足音は佳代をまねき入れた船員だった。かるく頭を下げて佳代のそばに来ると横に座った。ちぢれた薄い赤髪が肩までとどいていた。横目で見つめいきなり佳代を抱きしめた。しかし動作は激しくなかった。佳代はあらがわずにじっとしていた。頬を擦りよせてくる。髭はあるが産毛のようにやわらかい。かすかに震えているようだった。体が大きいし日焼けして衣服が粗末なので荒々しい水夫のように思っていたが、まだ幼い少年のようだ。佳代とは年齢が少し下かも知れない。佳代は水夫の胸を押して体をはなした。少し逆らったが下を向いて横に座っている。膝を抱えて悲しそうな横顏だった。 

佳代は水夫の左手を両手ではさんで優しくさするようにした。そして少し話せるオランダの言葉で船長に合わせてくれるようにたのんだ。水夫はそんなことをすれば自分が船長に咎められ罰を受けると言う。佳代は自分が勝手に船に乗り込んで発見されたことにすればいいと言うのだが、話が込み入って伝わらない。

数人の足音がして話し声が近づいてきた。

少年の水夫は立ちあがり佳代は荷物の奥に隠れた。少年の水夫は甲板に上がっていった。話し声が聞こえていた水夫たちは荷物を運んで船倉から出て行った。

佳代は外を見ようと窓に行った。船は波を蹴立てて鬼界ヶ島を離れていく、根岸の乗る鄭成功の大型のジャンク船が見えた。帆を上げたまま波間に漂っていた。佳代の乗るオランダ船のゆれは大きくなっていた。先ほどの年若い水夫が下りてきた。その後から黑い上着に帽子をかぶった船員が二人つづいていた。佳代は通路に出て行きお辞儀をした。

近づいた黑い上着の一人が佳代に話しかけた。日本語だった。

「私は船長です。話、聞きました。明の船に乗っていた日本の娘さんですね。 もう一隻の大きなジャンク船に乗りたいのですね」

「そうです。おねがいします」

船長は目が青く帽子の下の髪は金髪だった。髭はきちんと剃られていた。

しっかりした日本語で、

「その大きい、もう一隻の、明国のジャンク船、日本の武士、五百人、乗っています」

佳代は夢のようだった。このオランダ船で日本語が聞けるとは、

「はい、おおくの武士が乗っています。その采配を私の親しい人がしています」

船長は思いがけない顔をして、理解したように帽子をとってお辞儀をした。

「その武士、あなたの愛する人、ですね」

 佳代は顔を赤らめ、うつむいて頭を少し下げた。

「わかりました。いい、方法、考えます。待ってください」

 

波間に漂う鄭成功の大型ジャンク船にいる根岸は、後方の船尾楼で鬼界ヶ島から出て行くオランダ船を見ていた。それに佳代が乗っているとは思いもしない。佳代は枚方においてきた。今は京都にもどっているだろうと考えていた。そんなことより、湊にいる僚船は硫黄の積み込みに時間がかかっているのが気がかりだ。待ちくたびれて背伸びをした。遠くを見ると、足の速い船影が見えた。薩摩からきた島津家の関船だとわかった。柳生の武士たちはあの船に乗って大坂に帰る手筈になっている。しだいに近づいている。 

柳生の松下が根岸に言った。

「根岸殿、拙者はあの船には乗らずに貴殿と一緒に明国の厦門まで行こうと思う」

 根岸は松下を見て、

「それは心強いし、ありがたいが再び国に帰れないかもしれませんぞ」

 松下は近づいた島津の関船を見ながら、

「そのことだ。貴殿一人より拙者が一緒の方がいい。今の長崎奉行は江戸の旗本、甲斐庄 正述様だが、江戸で一度お目にかかったことがある。当時、江戸で普請奉行をしておられた甲斐庄様が柳生宗矩公を訪ねられたおりだ。あのときの話をすれば何とかなる」

 根岸は松下を見て、

「誠にありがたいが、それはお受けしかねます。松下殿のお役目ではないし、ここまで来られた柳生の方々を無事に連れ帰る責任がございましょう」

 島津の関船が鬼界ヶ島から南に腕のように伸びた半島に隠れるように入っていった。それと入れ替わるように小早船が出てきた。綿布の帆に丸に十の字の島津紋が見えた。大坂へ帰る柳生の武士たちを迎えに来たようだ。帆を降ろして大型ジャンク船に接舷した。

 

 そのころ、オランダ船の船倉にいる佳代は窓をのぞいていた。海はおだやかな東からの追手の風が吹いていた。船が風と共に走る。帆ははらんでいるが風は感じない。船倉は蒸し暑かった。佳代は喉が渇いていた。例の若い水夫がやってきた。柄の付いた水瓶と器を持っている。佳代に水を注いでくれた。押しいただくようにして飲んだ。

佳代は小便を我慢していた。恥じらいながらそのことを告げた。水夫はすぐに理解して、水瓶をさげて船倉を前方に進んだ。佳代はついていった。扉を開けると数人の水夫が作業をしていた。びっくりして手を止め珍しげに佳代を見ている。水夫はどれも髭を剃らずに無帽だった。

厠は船首の下にあって扉で仕切られていた。左右に箱があって向かい合って座れるようになっていた。箱をのぞくと海が見えた。若い水夫は扉の前で待っていた。作業している水夫たちと話しているが、からかわれているようだ。

 用をたして元の場所にもどると水夫は水瓶に水を注ぎ足してきた。顔を洗うように言う。船では水は貴重なことは知っていたが佳代は久しぶりに顔や胸元やうなじを洗った。水夫が嬉しそうな笑顔で、これから船長に会いに行くという。佳代は風呂敷包を持って水夫のうしろを歩いた。不安もあったが先が開けたような気分だった。甲板に出ると大勢の水夫がいた。一斉に佳代を見ていた。着ている衣服はまちまちで粗末だった。誰もが髭ぼうぼうでいろんな作業をしていた。

船尾甲板の階段を上った。操舵輪を持つ身なりのいい船員の傍に船長がいた。笑顔で迎えてくれた。船長室に入った。船長は帽子を脱いで机の椅子にすわり佳代は机の前の椅子に腰かけた。大きな柑橘を取り出し分厚い皮に小刀で切り込みを入れて剝き始めた。

かぐわしい香りがただよってきた。

「これは、おいしいです。ジャワのバタビアから届きました」

「めずらし、ブンタンですね。日本ではザボンとも言うようです」

 船長は薄皮をむいて皿にのせて佳代にすすめた。

「そうですか、日本にはまだ、知られてないと、思っていました」

 佳代は船長が皿にのせるはしから果実を食べた。それを見た船長は笑ってビスケットを出して冷めた茶を注いでくれた。

時間がすぎると佳代は落ち着いて笑顔がでていた。

「おねがいです。私を大きい明の船に運んでください」

 船長は大きくうなずきながら、

「わかります。佳代さんの、愛する人、います。その船、日本の武士、五百人います。五百人、鄭成功厦門に行く、オランダ、大変こまります。オランダ、台湾に三十年まえ、城塞つくりました。ゼーランジャの城塞、台湾、治めています。鄭成功とオランダ、互いに争います。互いの船に大砲を撃ち合います。日本の武士、五百人も鄭成功に味方するの、よくない。こまります。日本の武士、五百人、オランダに、台湾に来て、ほしい、です」

 佳代は両手を膝において船長を見て言った。

「オランダは長崎でつながりがありますが、こたびの方針は徳川幕府の決めたことで・・・」

「わかります。しかし船、もうすぐ、日本を離れて公海、海の上、どこの国でもない。幕府の法、武力、できません。それに、五百の武士はキリシタン。オランダ、同じキリスト教、です」

 佳代はもう訳が分からなくなりそうだった。

「私は、根岸さまと日本に帰りたい。早く合わせてください」

「わかります。明国の人たくさん、兵隊たくさん、台湾のオランダ人少ない、子ども兵士、子ども水夫、なります。五百の日本武士、台湾くる、佳代さん、手伝い、お願いします」

「なにを手伝うのです。なにもできません」

 船長は、しばらく黙っていたが、

「もうすぐ、オランダの大きな戦艦、二隻、来ます。大砲たくさん、明の船、戦えない。五百の武士オランダに、いやなら、抵抗すれば、大砲で沈めます。みんな、海の中です」

 佳代は、ぎょっと目を開いて、

「そんなこと江戸の幕府が許しません。長崎のオランダ人はどうなりますか」

 船長は考えるようにかるく目を閉じて言い聞かすように話した。

「陸から、遠く離れ、海の上、どの国の法も、無効。国を追放された人、国の保護、うけること、できません」

「では、どうすれば、なにをすればいいのです」

「私の船、明の船と、オランダの戦艦との、話し合い、あいだに立って、話合い。佳代さんの愛する武士に、私の話、うまく伝えて、ください」

 

 佳代は船倉の貨物の中にもどっていた。少年の水夫がそばにいた。木の棒を持っていた。

「ジャン・・・」と名前を呼んでみた。少年の水夫はいきなり名前を呼ばれてうれしそうだった。船長に付き添うように言われたと、棍棒を振ってみせた。

 

 日が落ちて風が変わっていた。佳代はゆれる貨物の間に敷物を敷いて横になっていた。いつの間にか眠っていたようだ。ぼんやり目を開いた。少年の水夫が膝を抱えて眠っている。小さな窓から涼しい風がはいっていた。窓に近づくと海は黑く静かで何も見えなかった。空には雲の合間に星が二つばかり小さく光っていた。

 かすかに物音がする。数人の足音がゆっくり忍ぶように近づいている。低い天井に吊るしたランプの灯にいくつもの影がゆれていた。佳代はジャンのそばにもどって身を潜めた。ジャンは眠ったままだ。佳代は腰の後ろに手をまわして懐剣を確かめた。数人の水夫が佳代を取り囲むように見下ろしている。

水夫の一人がジャンの頭を大きな手で小突いた。ジャンはびっくりして顔をおこして水夫たちを見上げた。ジャンを横に押しのけ、その耳もとに低く凄みのある声でなにやら言った。ジャンは騒ぎ出した。いやだ。だめだと言っているようだが、すぐにうずくまった。ジャンの棍棒で水夫が鳩尾をかるく突いていた。

水夫が二人がかりで佳代の体を押さえている。佳代が叫び声を出そうとすると毛の生えた大きな手が口をふさいだ。髭ずらのぶよっと太った顔が見つめている。悪党どもの頭のようだ。立ったまま腰の紐をほどいた。汚れたズボンが落ちた。おおきなすえるような臭いが佳代に重なってきた。胸元を押し広げた。片方の乳房が出た。さらに広げると十字架が出てきた。悪党の手が止まった。小さく光る金の十字架を見て、たじろいだようだ。それを見て横にいた水夫が悪党を押しのけて自分が代ろうとした。ぶよっとした髭面はそれを制して睨みつけた。佳代の十字架を引きちぎってその水夫に渡した。

 

胸元をさらにはだけた。顔をうずめてふくらみを味わっている。佳代は全身でもがき暴れるがいくつもの腕で押さえられ身動きできない。悪党が佳代の裾をひらいた。露わになった片足を持ち上げた。佳代は身動きできない。それでも必至でもがき暴れた。口を大きな手で塞がれ息ができない。苦しい。動くほど息が欲しい。大きな指の隙間から少し吸う息がよけいに苦しい。観念してされるがままにしていた。手を押さえていた水夫の力が抜けた。佳代は手をそっと後ろにまわした。懐剣をゆっくり抜いて、被さる悪党の脇腹に深く突き刺した。それでも悪党の動きがとまらなかった。佳代は懐剣を抜いて悪党の首をねらって突きだした。顔に当たった。悪党が叫んで飛びのいた。佳代はまわりの水夫を手当たり次第に切りつけたが、すぐに数人に押さえつけられた。別の水夫が悪党に代わって佳代にかぶさった。佳代は思いっきりに叫んだ。

令和四年六月二十九日