ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

家の周囲にある杉や檜の伐採は大詰めになってきた。

南側から西の方に伐採が進んできたが、残すは東の斜面になった。

家の周囲が明るくなってありがたい。

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家屋の近くは慎重にワイヤーロープを3つもかけて大型機械でガードしていた。

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木の高さは20メートルをこえそうだ。これから朝日が射すのがはやくなる。

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狙った方向に確実に倒れていった。

 

 

18日の金曜日はエッセイ教室だった。

 

貝原益軒を書こう  三十一               中村克博

 

 舟はすぐに見つかった。来がけに乗った舟は鴨川の中ほどに流れの緩やかな場所を選んで碇を下していた。船頭はすぐに久兵衛たちを見つけ舟行灯をふった。石造りの舟寄場に着くと根岸が乗って女人を渡らせ久兵衛がつづいた。舫いを持った船頭が舟を押して飛び乗った。船頭は二人いて一人が竿を使って舟を川の流れに進めた。舟は南に下りはじめた。

 屋形の障子を開けると左手に下賀茂神社の森が月明かりの中に暗くこんもり見えていた。

 久兵衛が外をのぞいて、

「下賀茂神社糺の森ですね。千年よりもまえから神代の樹木がしげっている」とつぶやいて、しばらくながめていた。

 狭い屋形の中は暗くて舟べりに当たる波の音が静かに聞こえるばかりだった。行き交う船は一つも見あたらない。久兵衛は障子を閉めた。風がふきこんで汗の引いた体が冷えていた。舟は軽やかに進んで右手には御所が望めるようになっていた。

船頭が顔を出してお辞儀をした。

「そこの、藁櫃の中に薬缶があります。湯冷ましですが、よろしかったら」と指さした。

「どうも、ありがたい。喉がかわいて、たすかります」と久兵衛がこたえた。

 湯呑がふたつ用意してあった。久兵衛は藁のふたを開けた。真新しい銅製の薬缶から湯冷ましを注いで女人に手渡した。根岸にも注いで渡した。久兵衛は女人が使ったあとの湯呑でと思ったがいつまでも口をつけない。根岸が飲み干して久兵衛に渡した。久兵衛はそれに湯冷ましをたっぷり注いで飲んだ。まだ冷めきれてなく温かかった。

鴨川がふたてに分かれて川幅が狭くなった。しばらくして舟が岸によってとまった。船頭が顔を出して着いたことを告げたが、言われなくてもわかっていた。船頭が舟の舫いをとって岸の杭に巻いている。根岸が屋形から出て岸に下りた。久兵衛は女人の湯呑をとって飲み残しを飲んだ。先に出るようにうながした。

船頭の一人が道案内に立った。女人を前後にはさんで三人は通る人のいない道を歩いた。間口が三間から五間ほどのいろんな店が軒を連ねているがどの店も戸締りをしていた。格子から中の明りが見えると奥に人影がうかがえた。通りを曲がってしばらく行くと間口が十間もありそうなひときわ大きな二階造りの店があった。江月宗州が京都で働くための拠点だろう。表は閉まっているので建物の横から路地を通ってくぐり戸から入った。

そこは吹き抜けの通り土間になっていた。壁や柱にいくつもの蜀が明るく数人の男女が行き来していた。案内してきた船頭は出迎えた番頭に三人を引き合わせると戻っていった。洗い桶が運ばれて三人は上がり框に腰をおろした。女人にはたすき掛けの下女が桶に湯をくわえて足をもんで丹念に洗っていた。女人の顏についた血のりのあとに気づいた下女は驚いて蒸した手拭いを何度も取り換えて顔をきれいにした。

 根岸は袴の埃をはらい、下女が手伝おうとするのをやさしく断って手拭いを受取った。大刀を腰の前に横にして框にすわった。刀の柄が右脇の下にある。後ろに人の気配を感じたが桶に右足をつけた。宗州の娘の佳代がニコニコして立っていた。

 久兵衛がそれに気づいて、

「おお、これは佳代さま、久しぶりですね」

 佳代は腰を落として両手をついた。

「お帰りなさいませ。久しぶりなどと、枚方からの船をお出になってまだ一日も経ってはおりませんよ」

「はあ・・・ そ、そうでありました。そのようです。半日が半月のようなときの流れでした。はは、は」とぎこちなく笑った。

「それはそれは、お疲れでした。ご無事でなによりでございます」

佳代は膝をずらして、

「根岸さま、おつかれさまでした」とお辞儀をした。

 根岸は洗った足を手拭で拭いていたが動きを止めて、

「お待たせしました。心配させました」と佳代に顔を向け顔を下げた。

 佳代が上がり框の女人を見ながら、

「して、おつれのお方は・・・」と言った。

 久兵衛が用意された足袋の替えをはきながら、

「はあ、それが・・・」と久兵衛は根岸をみた。

 根岸は刀を右手に持って身づくろいしながら、

「子細は奥で宗州殿にお会いしてからお聞きください」と言った。

 

 佳代が奥の座敷に三人を案内した。宗州が床の間の席を空けて座卓のすみに正坐していた。

「お待ちしておりました。おくつろぎください。軽い食事を用意しております」

 根岸は軽く頭を下げて、床を背にした奥に久兵衛を、その横に女人を、自分は女人の横の廊下ちかくにすわった。

 根岸が久兵衛を見て目をふせるように少しだけ頭をおろした。久兵衛は少し戸惑ったようすで根岸と女人を見ていたが、

「このたびは大変なお世話をおかけいたしました。正直、私には何がどのようになったのか、いまだわかりかねております」

 宗州が女人を見ながら、

「もくろみに違いがあったようですね。連絡をうけております」

 運ばれてきた茶を宗州がみんなにすすめた。根岸が茶を一口飲んで、

「拙者の無理なお願いが、面倒な事態を起こしたようで申し訳ありません」

「いやいや、当方の役目がら、このような時節です。いろんな予期せぬことがおきることは承知のことです」

 久兵衛が女人をちらりと見て宗州に、

「暗殺する要人がすり替えられて、女人を身代わりにするなど・・・」

 宗州はしばらく無言で久兵衛と女人の顏を見ていたが、

「殺されなかったお人は、こんどはそちら側の人々から御命を狙われるのではありますまいか、裏柳生への指示は柳生宗家から、さらにその奥には、言葉に出すのもはばかりますが、会津の保科公、徳川家がおられるはずです」

 久兵衛はおどろいて、

「なんと、そのように大掛かりな奥が深い話なのですか」

「はい、由比正雪の事件の核心に触れるような。そして今夜の茶会は大徳寺でしたね。大徳寺塔頭龍光院黒田長政公が父の如水公の菩提を弔うため、江月宗玩和尚を開祖として建立されました。如水公はキリシタンで洗礼名はドン・シメオンといいますね。伏見の藩邸にお住まいでしたが五九歳で亡くなられ、大徳寺龍光院に墓があります。今夜の茶会が開かれた場所です」

 久兵衛は聞くうちに落ち着かなくなった。根岸の顏と女人の顏を交互に見ていた。

令和二年十二月十七日