ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

先週の金曜日はエッセイ教室、提出した原稿は、

イノシシの被害               中村克博


 一昨日、所用で飯塚市内に出かけた。最近開店した瀟洒なレストランで簡単な昼食をとって帰ってくると、家の畑にイノシシがはいったようでナイロン網の防護柵が押し倒されていた。出かけるときには何ともなかったのでお昼前後にひと暴れしたようだ。畑の斜面が五メータほど小型のユンボで掘り返したようになって柵の網も支柱も無残な状態だ。夜だけでなく、ついに昼間にも出てくるようになった。最近はイノシシにくわえてシカの被害の方が大きいそうだが、この仕業はイノシシに決まっている。今年の冬になって我が家の畑にイノシシが二、三度入っている。その度に玉ねぎの苗も大根も掘り返す。玉ねぎや大根は食べないで、ただ掘り返す。ミミズを食べているらしい。畑の隅にアジサイが植えてあるがその根っこは特に徹底して五十センチ以上も掘っている。ミミズにしては深すぎるので冬眠している蛇を狙ったのかもしれない。そういえばここ数年、散歩していて蛇を見かけなくなった。冬眠中にイノシシから食べられて春になっても出て来ないのだろう。
飼い犬のグリュックがいたころ、散歩に出かけると、この付近はマムシをよく見かけた。道の陽だまりに、とぐろも巻かずに短い体を長々と寝そべっている。ほかの蛇は大きな青大将でも毒々しいヤマカガシも黒くなったカラス蛇でも人の気配で慌てて逃げるがマムシには逃げないのがいる。そんなマムシに出くわすとグリュックはそっと避けるように通りすごしていた。僕は手ごろな石を抱えて来てマムシの頭の上で手を放す。マムシは三角の頭をつぶされて陽だまりの眠りを続けてた。
グリュックで思い出したが害獣はイノシシやシカだけではない。ハクビシンというのがいる。農作物の被害はイノシシほどではないが近くに住み着くと大変迷惑する。糞をきまった場所でするらしく倉庫の隅にこんもりと重なったのを発見したことがあった。スコップで片づけクレゾール液で消毒したがクレゾール液が乾かないうちにまたこんもりしている。そのうえハクビシンには毒ダニが寄生しているのがいるようで、そいつの通う行きつけの場所には毒ダニが付着しているらしい。夏の暑い日、グリュックがそれにやられたことがあった。散歩の歩調がおそい、足が上がらないようにポタポタと情けない歩き方をしている。開いた口の中が白く見えた。瞼をひっくり返すと両方とも血の気がなかった。ひどい貧血だ。犬猫病院に連れて行った。獣医が耳の裏をひっかいて検体を顕微鏡でみている。
「バベシアですな」
「なんですか、それは…」
「この付近ではハクビシンに寄生するダニによって媒介します」
 それまでハクビシンという名前は知らなかった。獣医は顕微鏡の映像をテレビのモニターで映し出して僕に見せてくれた。画面いっぱいに大きな蜘蛛のような黒いものがいくつも蠢いていた。
「わぁ、気持ち悪いですね」
「このダニがバベシア原虫を赤血球に感染させます」
「ダニがですか」
「ダニがです。溶解性貧血を発症させます。死ぬ場合がります」
 グリュックは、すぐに大きな注射をされた。グリュックは情けないようにうなだれていた。それから毎日注射を打ちに通った。イヌ用の注射がないそうで牛用の大きな注射だった。獣医が注射器に液を入れて用意するのを横目でチラリと見てうなだれる表情を思いだした。日に日に良くなっていくのがわかるようで、病院に行くのがうれしそうだった。だんだん元気を取り戻すと注射針を刺されると「ヒュン」と小さな声を出すので看護婦さんが笑っていた。
 イノシシの話からグリュックの思い出になっていた。
それで、畑のまわりに丈夫な金網のフェンスを巡らすことにした。頼みつけの大工の棟梁が業者をつれてきた。「田園風景も昔とは変わったね」「人間の方が檻の中に入っとるように村じゅうが金網に囲まれたね」そんな話をしながら設置場所の確認をしていた。
「最近は、国が支給した金網では間にあわんと、イノシシが端をへし曲げて畑にはいりよるばい」
「そうやね、うちも、二、三年はビニールの網でよかったばってん、いっぺん入ったら、もうだめやね」
 畑のまわりを巻き尺で測りながら三人で歩いていた。入口は二か所で耕運機が入れるようにする。地面から少し開けるが地面を掘って入らんようにするにはどうするかは未定だ。石垣の上に来た。
「ここに、イノシシ罠を作ろうと思う」
「どげんすると、ですか」
「三尺幅の二間ほどの板を差しかけて、ギッタンバッコンのようにすると、エサを置いとって、イノシシが来たらバタンと板が下がって檻の中に落ちると、いい考えやろ」
 大工の棟梁は笑いをこらえるように、
「つごうよう、はいりますかね」
「なぁし… はいろうもん」
「は、は、イノシシに笑われますバイ」と前歯の抜けた口をかくした。
                       平成二十九年一月十九日