ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

今日は金曜日、午前中はエッセイ教室だった。

グリュックのことを題材にした。


久しぶりにグリュックと散歩に出かけた。      中村克博


 グリュックが散歩に行かないようになって随分になる。太りすぎて股関節を痛めたのが原因だ。はじめは太り過ぎの弊害に犬も飼い主も気がつかなかった。朝の散歩の途中から呼吸が少し大きくなって段々に歩調が遅くなったのは二年ほど前の夏の暑い盛りだった。この犬の原産地は寒冷地のなで暑いのには弱いのだろうと思っていた。大きな舌を出してゆったりと歩くのはむしろ堂々として得意げにさえ思っていた。そのころ体重は五〇キログラムほどだったと思う。

 住まいの近所に小学校がある。授業が終わると自宅から自転車で数人の児童がときどきグリュックを訪ねてやってきた。グリュックを誘って隠れんぼをするためだ。そんなあるときグリュックが左の前足を上げて情けない顔をした。「あそべないよ、足が痛いよ」と言っているようだった。子供たちは餌をやって催促するが、グリュックは応じないのでそのうち諦めて帰っていった。
それからグリュックは散歩に出るとき僕にもそのポーズをするようになったが僕はかまわず夏でも冬でも欠かさず毎朝の散歩を続けていた。そうするうちに歩き方に変化がでてきた。尻を少し振りながら歩くようになった。僕はマリリンモンローのようだと面白がっていた。リズムをとるように歩く。牛が足をひょっこり、ひょっこりと前後にではなく左右に振るように歩くのに似ている。それでもなんとか僕から遅れて散歩には毎朝でかけていたが、ついには、いよいよ動けなくなった。体内に大きな脂肪のカタマリができているのが見つかってその摘出手術をしたのはこの頃だった。体重は六〇キログラムを超えていたかもしれない。
こうなるとさすがに飼い主も家人も餌のやりすぎに思い至った。それまでは決まった時間に一日三食、さらに、朝のおやつに三時おやつ、間食は与える人の思いのままだった。それがある日から餌の量は極端に減らされた。一日、二食になった。それも一回の量は三分の一になった。
グリュックは空腹でなんでも口に入れるようになった。散歩の時は農家の畑に投棄された野菜や果物を詰め込むように食べていた。土を食べる量もいつもより多くなった。しかし、畑に捨てられた野菜がいつでもあるわけではない。土をいくら食べても腹が満たされることはない。
 ある朝、こっそり自宅の畑から大根や芋を抜いてきて食べたことがあった。それを見つけた母はグリュックにではなく僕を叱りつける。それで僕はグリュックの頭を殴りつける。グリュックは何の事やら分からず僕を見上げる。母はそれを見て僕を非難する。食べ過ぎはほんとによくない。

  
僕はずいぶん前から三度の食事を決まった時間にはしないようになった。時間とは関係なく腹が減ったら食べている。何かをやりかけている場合など腹が減っても、ときには食べないこともある。こんな勝手は独り身だからできるのだろうがグリュックの減量を始めてからは餌の時間を僕のこの都合に合わせることにした。だからグリュックにとってはいつ餌がもらえるのか見当がつかないことになった。時には忘れてもらえないこともある。時間どおりではないので、餌をやったかどうかを思い出せないことがあるのだが、その時にはやらないことにしている。
そんな時にはグリュックは母屋の台所に向かって吠える。そうすると母が杖をついて出てくる。左手に何やら食べ物を持って出てくる。餌は吠えれば出てくるもんだと思い始めているようだ。台所に向かって吠える回数が多くなった。母の手を見るとほんの申し訳ていどのおやつが見える。その量なら問題あるまい。

もちろん僕も現役の社会生活をしていた頃には決まった時間に食事をしていた。朝もしっかり食べていたし、夜遅く帰宅しても決まってちゃんと食べて寝ていた。今のようになったのは引退してしばらくしてからだ。元来、何かを食べたいと考える習慣がないし余程のことでなければまずいとは感じない。何でも喜んで食べるのはグリュックと似ている。それが数年前から朝の食事には季節の野菜と果物を食べるのがこのみになった。夏場は生のままで寒い冬の朝は熱くなるほど蒸して少し柔らかくなったのを大きなドンブリ鉢に山盛りにして食べる。そんなに食べても一時間もしないうちに胃がスッキリして空腹を感じるのは不思議だ。
ニンジンやキュウリの両端、トマトやカブのへた、リンゴやナシや柿の皮と芯と種はグリュックの食器に放り込む。ブロッコリーの硬い茎のようなのもグリュックへ、皮をむいたバナナの黒くなったところもグリュックへ。
時には生ハムやナッツを加え、ヨーグルトや蜂蜜をかけるときもあるが、それはグリュックにはいかない。その代わりにドッグフードを少し加えてやる。人類は穀物を栽培するまでは木の実や草を採取して主な食料としていたらしい。人類と共生していた犬はどうだったのか知らないがグリュックの朝食は最近かなり菜食がおおくなっている。

考えてみれば、食事を決まった時間にとれるようになったのは人間も犬も近年になってからだろう。歴史的にみれば腹をすかしていた時期の方がはるかに長かったはずだ。元来、生き物は空腹の状態が正常なのかもしれない。腹を空かして餓えを感じれば体に蓄積している栄養素を消費させるので先入れ先出しになって体内脂肪などの在庫管理にもいいだろう。
それに、聞いた話だが空腹時に若返りホルモンとも呼ばれる成長ホルモンが分泌されるらしい。さらには、近年発見された若返り遺伝子サーチュインが活性化すること。それらの分泌と活性化によって、肌が白くなり皮膚や消化管の傷を治してくれるだけでなく、抗がん作用まであるとのことだから、何とも空腹こそ元気の素らしい。そんな訳で、久しぶりに「グリュック」と散歩に出かけた。

平成二十四年四月一九日


エッセイ教室の後、「ひらひら」で休んだ。
金曜日はお昼のあと、夕方の居合の稽古まで「ひらひら」に居ることがおおくなった。

燃料タンクがほとんど空になっていた。マリノアで給油した。70ℓも入った。