ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

昨日はエッセイ教室だった。


    ハクビシンのウンコ                 中村克博


 ハクビシンが倉庫の中でウンコをする。いつも同じ場所にする。数日するとウンコが幾つも重なってこんもりしている。クサイし、見て腹が立つ。スコップですくって、砂をまいて、ホウキで掃いて、そのあと石油をかけてニオイを紛らす。これが数か月も続くとハクビシンの鼻と目が時々思い出されて頭に張り付いて離れない。どう対策していいのか分からずいたが、思いついて倉庫の入口に、畑に使っていた古いネットを張ってみた。すると功を奏して、それからハクビシンはウンコに来なくなった。これは夏になる前の出来事だった。
 おかげで夏のあいだは倉庫に行っても安楽な日が続いてハクビシンの事はすっかり忘れていた。ところが二三日前、適当な材木を探しに倉庫に行くと、こんもりしたのがある。まだ少し生々しいので乾くのをまとうと思った。天気が続いた昨日のお昼前、干からびたウンコを片付けて、くだんの処理をした。要件があったのだが遅くなった。トラックのエンジンをかけ、左のドアの窓の先を見ると石油をまいた場所が黒く光って満足な気分になった。しかし、次なる対策を考えないとまたヤラレル。

トラックの行き先は高校時代の友人の木工製作所で八木山から飯塚市内を東南東に四五十分ほど筑豊盆地を端から端に横断することになる。晴れわたって天気がいい。青い空を見ていると、いろんなことが頭をよぎった。
「北の正恩さんは次のICBMをいつ発射するのだろう。グアムの方には飛ばないのだろうが、やはり北海道の上を通り過ぎるのだろうか」
「ロケットを反対に向ければ、東京より北京のほうが少しばかり近い、たぶんにトランプより習近平のほうがイライラしているはずだ」
「日本の安倍総理は北の所業をありがたいと思っているだろう。いや、トランプの方がもっと喜んでいるはずだ。憲法第九条を改正すれば国軍の頸木がとれる。アメリカはイージス艦や最新戦闘機のF15やF22などを法外な価格で日本に買ってもらえる」
「この二人は、時どき、北の正恩さんにお願いしているのかもしれない。そろそろ一発ちょいと飛ばしてくれと… 頼もしい援護射撃だ」
「日米のトップ二人が頼もしい助っ人と思うのは、小池東京都知事もその一人だ。どんでん返しのドラマティックな展開はおもしろいが、ただそれだけ、その先がない。この演劇の脚本は案外にトランプさんの筋かも知れない」
「いずれにしろ、このままでは憲法の改正か自主憲法の制定に目途がつきそうな雲行きだ」
運転していると、いつもは考えもしなかったことが勝手に頭をかけていくうちに、ふと、流れる景色に気づいて我に戻った。ところが風景の連続性が途切れていて、あれぇ〜、ここはどこを走っているのか咄嗟には分からなかった。右折しなければいけない交差点を過ぎてしまったのかと、どぎまぎした。

木工工作所に着くと、友人が待ちかねていた。さっそくホークリフトで端材の塊を荷台に乗せてくれた。15cm角のケヤキの赤身で長さが10cmから30cmくらいのが二立米ほどもあった。
重くなったトラックを運転しながら、
「いい材料だが、この形状でこのような堅いケヤキのカタマリは僕の木工技術では手に負えそうにない」と思った。
それで、急きょ思い変えて、八木山の自宅近くにある木工工房のおやじのところに持ち込んだ。思いがけない良材の提供にとても喜んでくれた。一個一個堅いケヤキをトラックから降ろして丁寧に積んでいった。終わるころには素手で作業したので手の皮が薄くなってヒリリとしたが、木工作家のおやじのゴッツイ指は何ともないようだった。
「何に使うと…」と聞いた。
「うむ、まだ考えつかん」
「寄木も面白いね。クリ物も良さそうやけど硬いかね」
「うむ、まあ、これから考えるよ」

 家に帰って、倉庫にトラックを入れた。きれいに掃除された床に石油をまいた跡が清々しく思えるのはハクビシンのウンコのお陰だ。そうか、ハクビシンがウンコをしなければ、こんなに徹底して掃除はしないし入口に古いネットを張ることもないだろう。ネットでダメなら次はホームセンターから金網で出来た捕獲機を買ってくることになるだろう。
北の正恩さんがロケットを飛ばすおかげで憲法第九条の改正はやりやすくなる。日本が攻撃を受ける、餓えた野獣のような武装兵がなだれ込んで来る、そのあとの凄惨な状況が実感的に想像できれば憲法改正はやりやすくなるのだろうが、しかし、ロケットは飛んでも、まだ実害はない。ハクビシンが倉庫の中をウロウロしているが、まだウンコをしていない状態なのだ。

平成二十九年十月五日