ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

今日が今年初めてのエッセイ教室だった。

提出したエッセイは、

 

      風邪と豚汁                    中村克博

 

 

 風邪が流行っているようだ。わが妻も熱が三九度五分もあるようで今日は昼すぎてまだ床に就いていたが、お粥が食べたいと言うので茶粥をつくった。電気釜で炊き上がったばかりの飯にたっぷりお茶をかけてぐつぐつ二〇分ほどもとろ火で煮つめた。床から出てソファーに毛布をかぶってマスクをした格好で蹲っていた。妻は台所から漂う茶粥の湯気を嗅ぎつけて、

「あ、ぁ、いい匂い」と言った。

 大きめの茶碗に半分ほど入れて、塩と梅干をそえて出した。

「あ、そんなにたくさん」と言って背を伸ばした。

「いや、ご飯はほんの少ししか入っとらんよ」

 妻は不審そうに茶碗のお粥を見てひと匙すくった。

僕は朝から台所で豚汁をつくる用意をしていた。畑から大きな大根を二本抜いてきた。大きい方の一本は母の訪問介護に来ている女性にプレゼントした。残りの一本を半分にして火にかけている寸胴鍋に入れた。妻がお盆をもってふらつくようにして台所にやってきた。お盆を受け取ると大きな茶碗のお粥は一掬いも残っていなかった。

「おっ、よう食べたね。これだけ食べれれば大丈夫ばい」

妻は「おいしかった」と言って寸胴鍋を覗き込んだ。

「もおう、こんなにたくさん作って・・・」

 

妻がふたたび寝床に帰っていったのを見とどけて、豚肉を二パックいれた。八木山産味噌もこってり入れた。味噌は最後に入れるらしいが、僕は早めに入れて煮つめるのが流儀だ。あまり教えられる通りにはしていないが、いつもおいしいと言ってくれる。そうだろう、水は少ししか入れない。酒を並々と入れてある。酒煮込みだ。

できあがった豚汁を大きなお椀にいっぱいにして、ご飯も自分つぐと多めになって、パソコンや本を重ねている机に持ってきた。やおら先ほどの読みかけの本のページを開いたが、豚汁を食べながらでは難しい本は読みずらい。それではとパソコンのユーチューブを開いて貝原益軒を検索してみた。ほう、いろいろな画面がでていた。その中から歴史研究者の河合 敦とかいう人のNHKのカルチャーラジオという画面を開いた。話が養生訓にすすんで、時機にかなうタイムリーな話が飛び込んできた。ボリュムを下げた。寝ている人に悟られないようにしなければ、「食事をしながら本を読んだり、パソコンを見るなんて」とやかましく言われるに決まっている。やっと聞こえるくらいにして、小さなスピーカーから出てくる音に聴き入った。

 

  風邪をひいたら薬を飲まない。

  薬を飲まずして・・・

  己から治る病おおくして・・・

  薬を用いるは慎むべし・・・

  病をばうれい苦しむべからず、苦しめば気ふさがりて病くわわる。

  心は楽しむべし苦しむべからず。身は労すべし休め過ごすべからず。

  我が身愛し過ごすべからず。

 

 耳を澄まして、ほんとに、そうだと思った。風邪をひいて熱が出るのは、体が必要だから体温を上げているのだろう。それを薬で熱を下げるのはいかがなものか、おまけに訳の分からん注射までされては体の機能は混乱するかもしれない。たっぷりお茶を飲んで自然に熱が下がるまで寝ていたらいいのにと思う。たまに高熱を出すと体に悪い細菌が熱に耐えられずに死滅してしまうというありがたいが学説もあるそうだ。

 豚汁は食べおえたし、ユーチューブを聞き終えたので本棚から養生訓の現代訳を取り出してきた。目次をながめていた「同じ状態で長時間いるのは体の害」と言うのが眼にとまった。「飯は食べすぎないようにする」とあった。豚汁と飯を食べすぎたようだ。

 巻の第八、最後の項目だ。【養老】とある。「老後を楽しむ」、本文を開いてみると、これは自分のことではなかった。親を養うことだった。老後は若い時よりも十倍の速さで日月が経つ、従容として残った月日を楽しめるように、人の子たるもの、それを心にかけるようにとあった。「老人を寂しくさせない」という項目が目次のお仕舞の方にある。今回のエッセイを書くのはこれまでにして、母屋に一人いる母のご機嫌うかがいにいこう。

ところがである。のちほど、この文章を読んだ妻が言うには、そんなこと分かっている。そうしたくてもできない人がおおぜいいる。そのことを分ってほしい。職場を休めない人はおおい。他人に迷惑がかかるし、自分のくらしを立てなければいけない。まして小さな子供がいては親は風邪ぐらいで寝てはおれない。同じような事情で年老いた親の面倒を自宅で見れない人も多いのではないか。養生訓が言う事はもっともだろうが、今の時代、それが出来る人は恵まれているのだ。そのことに感謝すべきなのではないか。だいいち男が自分のことを自慢げにペラペラ書くなんて恥ずかしい。と、妻の苦言はつづいた。

平成三十一年一月十七日