夜明け前、月明かりで山の輪郭が見える。白い海面の波がしらも見えるが浮流物の確認は難しい。
エンジン音は快調、冷却水がリズミカルに噴き出て排気ガスはほとんど無色。
回転は2900まで上げている。東の空が明るくなってきた。
風向きがいい、ジブセールを半分ほど開いた。
地島を目前に、日の出になった。
地島との間は風と海流が向き合って三角波が泡立っていた。
地島を通って友ヶ島水道に差しかかる頃、釣り船がたくさん出ていた。
鳴門海峡が見えてきた。このまま行けば潮止まりに間に合いそうだが、北風が強い。
高い波を正面から受けて真登りに走ると、押し戻されて2ノット以下になる時がある。
鳴門海峡を通るのは断念した。楽しみにしていたのにベテランヨットマン二人が決めた。
進路を鳴門市に向けて小鳴門海峡を抜ける事になった。
海峡の入り口にある、この標識が重なるように進路をとるらしい、
反対から入って、ここを出るときにはどうするのだろう・・
海峡にはいくつもの橋が架かっている。
わかめの養殖が盛んらしい。そのためのブイがあちこちにたくさん見える。
海峡は両側の山に挟まれて風がない、海が静かだった。
海が時化ているからか、日曜日だからか、漁船がたくさん停泊していた。
海峡を出たら海の様子は違っていた。
波にあたると空が見えた。晴れているのに風が強い。
波を直接かぶる事は無いが、飛沫でずぶ濡れ、手先がかじかんで指の力が入りにくい。
いくら時間が過ぎても陸の景色が変わらない。向かい風で波に船が戻されると舵が効かない。
引き返すことにした。慣れない地形は分かりずらい。海図で確認する。
岸の近くに、ブイや網の旗がいたるところにあるが、波が高くて良く見えない。
海峡に戻って、直ぐ西側の日出湾とかいう中にある港に入れた。波風が穏やかだった。
としあえず漁船に舫って周りの様子をうかがった。対岸に草刈りをしている人がいた。
その人たちに相談すると、係留場所を指示してくれた。ここのヨットクラブの人達だった。
友人が事前に海上から電話していた人も、高松から車で小一時間を駆けつけてきた。
草刈りの人と、車で来た人は知り合いのヨット仲間だった。みんなで手助けしてくれた。
パシフィック・シークラフト31はここでしばらく避難することになった。
僕たちは車で高松まで送ってもらった。岡山から新幹線で博多に帰った。
髪はぼさぼさ、ブーツは潮が固まって白くなっていた。
リュックを背負って首からポセット、手荷物のカバンが2個、くたくただった。