ロットワイラーと菜の花はよく似合う。こうして見ればグリュックはやはり品の良いお嬢さんだ。それに、かなり美人の部類に入る。僕がグリュックの座る位置を指先で微調整すると、まったくグラビアモデルのようにポーズをとってくれる。
「はい、伏せて・・」
「もう少しコッチに・・」
「座って、上向いて・・」
近くで畑の手入れをしていた近所のおばあさんが見ていた。僕はあえて何でもないように仕草を装った。おばあさんは呆気にとられ信じれない顔をしていた。感激は年寄りを若返らせる。
きのうの日曜日の朝、遅めの散歩に出かけると、いつも僕を食事に招いてくれるお宅の犬に出くわした。天然記念物指定の四国犬で去勢していないオス犬だ。
昔、この犬種はイノシシ猟に使われたいたらしい。気性が激しくて他人には決してなつかないが飼い主や家族には忠実だそうだ。頭を撫でてやろうとしたら危ないので止めたほうがいいと言う。
いつもは檻の中に居るのでグリュックはからかうように回りを飛び跳ねているのだが、こうして出会ったのは初めてだった。かしこいグリュックはためらいもなく服従の姿勢をして難を逃れた。見かけと違って平和主義なのだ。
