ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

昨日は午前中、エッセイ教室、夕方から居合の稽古。

曇りの天気で涼しい日が続いている。

箱嶌さんは二尺五寸をこえる半太刀で前突きの稽古をしていた。

古式の形を発掘して研究しているのだろうか・・・




この日、エッセイ教室に提出した原稿はこんなだった。


栄西と為朝と定秀                       中村克博


接舷した船の艫屋形から高木ノ次郎とその船頭もこの様子を見ていた。
船頭が高木ノ次郎を見て、塩のふいた揉み烏帽子をかるく下げた。
「この場を私におまかせください」
船頭は太い声をしぼるように出した。
「そうじゃろ。船乗りは、船と、たましいは、ひとつたい」
さらに声をついで、少しゆっくり話した。
「じゃがな、その魂は、おいの心ん中にあっと。船にはなかぞ」
惟唯は動きを止めて聞いていた。
「船頭が命ば賭して船をまもるとは、船に乗っとう人ば、まもるためやろもん」
惟唯は、つがえていた矢を弓から離した。
しばしの間があった。風も波も静かだった。
「じゃがな、ほんなこつ船をただ捨つるとは、おもしろなかたい」
船頭は、きっぱりと告げた。
「おまえは、わがの言葉とおりに船に残れ、帆の取り回しに水夫を四人えらべ」
惟唯は声をききながら事の成り行きをみている。
船頭はさらに話をついだ。
「敵の軍船を浦の奥に誘い込め、こっちの船はわしが一人で舵をとるき」
言い終わると船頭は惟唯を見て、塩のふいた烏帽子を深く下げた。
「このたびにかぎり、何とぞ下知にさからうことをお許しください」
惟唯は高木ノ次郎を見たが次郎の表情は分からなかった。
惟唯は大声でこたえた。
「わかった。そのように致す。いそげ」
舫いがとかれ、小早船の帆が上げられた。
綱で引かれた後ろの船も離れていった。
朝日に向かう二艘の伴船の鄢い影が小さくなった。
宋船の舷側からは何事もなかったように網が引き上げられていた。
松浦の戦船が一〇艘、櫂を使って宋船の両舷を通り過ぎていく。
惟唯は為朝のそばにいた。
「松浦の軍船はすぐに追いつきます。たいして時はかせげません」
宋船の船長が為朝にむかって大和の言葉で鷹揚に意見を述べた。
「松浦の船が博多の船を検問することはないとぞんじます」
否む(いなむ)ように惟唯が言葉をはさんだ。
「あの二艘が空だと分かれば、そうはいきますまい」
船長は帆柱の先になびいている吹き流しを見ていた。
「この西の風、もう少し強くなれば船はだせます」
「向かい風ですぞ、風が上がれば櫂もむりではありませんか」
「いえ、船首から前の帆柱に張られた縄に三角の縦帆を二枚はります」
「ほう、向かい風に上っていけるのですか」
「風上に角度をつければ、風が強ければ、なんとか」
為朝と高木ノ次郎は浦の奥に進んでいく二艘の影を見ていた。
前の船だけが帆を上げて後ろの船を引いている。
二艘は浦の奥にとどく手前で右舷に回頭しようとしていた。
西から吹いている追手の風は、右舷からの横風に変わる。
右舷側の帆桁をだして左舷側をしぼって風に合わせている。
「松浦の船が二手に分かれます」
次郎が右手を額にかざして朝日をさけながら為朝につげた。
朝日は山の上にかなり高く出たが、それでも逆光で船上の様子は見えなかった。
松浦の軍船から三艘だけが先回りしようと右舷に進路をかえて帆を上げ始めた。
逃げる二艘は岸辺に沿って、さらに右舷に回頭を続けている。
「もうすぐ、向かい風になります。帆走は限界です」
逃げる芦辺の小早船は帆を降ろした。屋形の両舷から二丁ずつ櫂を出して漕ぎはじめたが、綱で結ばれた二艘の船を四丁の櫓で漕ぐのは所詮むりだった。
行く手を制した松浦の三艘が帆を降ろしはじめた。
帆を降ろした三艘は八丁の櫂を使って間合いをつめていた。
「矢頃に入るな」
無念そうに次郎が「はい」と応えた。
三艘から仰角を大きくとった無数の矢が輝く朝日に向けて放たれた。
矢は上り詰めると向きを変えて落ちてくる。
それが芦辺の船の上に降り注ぐ。
さらに三艘から無数の矢が水平に放たれた。屋形には盾板がめぐらしてあるが、多くの矢が盾板の間から吸い込まれるように消えていった。
櫂の動きは止まった。
そのころには、碇を入れた船や行きちがう漁船を交わしながら後を追っていた七艘の軍船が逃げる二艘を岸に追い込むように近づいていた。
その七艘からも容赦なく矢が放たれた。
先ほどの倍以上の矢数が朝日に向かって飛んだ。

宋船は船首の三角帆だけで浦の口に向かってゆっくり進んでいた。
西の風は少しずつ北にふれて強くなってきた。 
かすかな音を立てて、はためいていた三角帆がするどく風を切りはじめた。
高木ノ次郎が浦の奥をふりかえると襲われている二艘の伴船が見えた。
二艘の船に松浦の軍船が群がり、ひしめいている。
為朝に告げた。
「松浦の軍船が接舷しています」
為朝は前方の敵を見ていたが、ゆっくり顔を浦の奥にむけた。
次郎は両手を下げて、その情景をながめていた。
逆光で輝く影絵は、かえって悲惨な想像をはたらかせて、どうしようもない憎しみが芽生えてくるのをおさえきれなかったが表情は平静であった。
静寂をやぶって大きな声がした。
「風が北に変わります。主帆を上げます。総帆で封鎖線の中央を突破します」
船長が為朝の方をむいて了解を求めた。
為朝は頭を下げて、うなずいた。
浦の口には大小の軍船が舳先をこちらに向け間隔をおいて並んでいた。
小早船の数は前よりまして三十艘はいる。
いずれの船も櫂と舵を使って同じ位置をたもっている。
その戦列には大型の外洋船も数隻、帆を降ろして碇を入れていた。
浦の口は西に向かって開いている。
いま風は、ほぼ真北から吹いている。
「左舷、矢戦の用意をせよ」
惟唯が右舷中央の風上から指示をだした。
二〇人の弓をとる武者が左舷に移動して矢をつがえた。
宋船は二本の帆柱の横帆を風に合わせて開いていた。
「船足がついてきたな」
為朝は先ほど船尾楼の甲板に上っていた。
「これなら小早船と行き違いに激突しても弾き飛ばしますね」
横にいる高木ノ次郎がこたえた。
そのとき、出口を封鎖する松浦の軍船の前に、葦が浦から一艘の小早船が出てきた。
「寄掛り目結紋の旗印だな」
「ちかごろ、天野遠影に代わって鎮西奉行になった武藤輔頼のものですね」
武藤の旗印をかかげた小早船は櫂をムカデの足のようにだして漕いでいた。
舳先を並べている松浦の軍船の前を走って中央で停止した。
「引き鉦を打っておるようだな」
「はい、しかし鉾を納めても、このままでは武藤の船は我が方とかち合います」
惟唯が階段を駆け上ってきた。
弓と鏑矢を持っている。
「いかがいたしますか。矢合わせをいたそうと思います」
「まて、まて、武藤は松浦の船に引き鉦を打っておる」
宋船の船長が階段を駆け上がり為朝に近づいて、武士のように頭を下げた。
「このままの進路でよろしいでしょうか、いかがいたしますか」
「うむ、このままでは武藤の船の横腹にあたるな」
船長は舵取りの水夫の方を咄嗟見て、すぐに為朝に顔を向けた。
「面舵は風が無理です。取舵には切れますが投錨した外洋船とあたります」
次郎が為朝の顔を見上げるように笑顔で言った。
「やむをえんでしょう。武藤の尻を少しばかり、かすめて進むしか」
「そうだな、艫をかわして、その勢いで、すぐに右舷に切れぬかのう」
「はい、むつかしいですが、やってみます」
船長は、いそいで階段を下りて舵取りのほうに駆けた。
武藤の船は宋船が船足を落とさないので、慌てて前に出ようと櫂を動かした。
宋船は舵を左舷に切った。北風が少し後ろに回るので、さらに船足がついた。
武藤の旗印を眼下に、その船尾を交わしたが目の前に碇を降ろした大きな船がいる。
すぐに右舷に舵を戻したが帆に裏風が入って船足がおちた。
                               平成二六年六月七日