ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

久しぶりに東京に行った。

家業の実務を離れて20年、引退して10年近く、なのに取引先の祝賀会に行った。

社長が行けないので名代で行った。OBの来賓に旧知がいたが、現役は知らない人ばかり…
ポケットに知らない人の名刺が溜まるが、僕は10年前から名刺がない。

20年前、一緒に仕事したOBが最後の挨拶をした。東京駅の周囲も様変わりしていた。

デパートを歩いていたら、気に入ったデザインのバッグがあった。
新製品がでて旧型の特売だった。妻に電話すると写真を送るようにと…
許可が出たので買った。


先週のエッセイに提出した僕の小説は



アテナの銀貨                    中村克博


水平線の近くに十艘ほど船がこちらに向かっている。まだ遠すぎて様子はわからないが横帆が西の追い風にはらんで船足は速い。
傾いた日差しに次郎は手をかざして、
「海賊の船だろうか…」
「まちがいありません」
 アラビアの船は信号のラッパを互いに鳴らしている。晴れわたった海に透き通るような音色が響いていた。
「後ろの帆の風を抜くようだな」
「一列縦隊になるようですな」
 帆風を抜いた次郎の乗る船の速度が落ちて、左舷を並走していた大型のアラビア船がみるみる先に進んだ。それに続く二隻も速度を落としている。
「あの間にこの船を入れるのだな」
「そうですが、この船はもうこれ以上は西風に上れません」
 すると、先に進んだ大型のアラビア船が右舷に舵を切って次郎の乗る船の前に出てきた。後続の二隻のアラビアの船も同じように右舷に舵を切って次郎の乗る船の後ろにまわりこんだ。四隻の船は一列縦隊になって西風の上り角度ぎりぎりをに帆をつめて進んだ。だが、風が弱い。
「一列縦隊で突き抜けるのだな」
「先頭のアラビア船は海戦の装備があります」
 次郎は船尾楼のマンスールを見上げ、兵衛に、
「しかし、このままでは、行き違うだけではないのか」
 兵衛は塩のふいた烏帽子の顎紐を結びなおしながら、
「まさか、歓迎に出てきた訳ではなし、何か、たくらみがあるはずですが…」
 高麗の海賊の船団がだんだん近くに見えてきた。一艘に二十人ほどの海賊が乗っているようだ。横帆の一枚張りでその下に小さな船屋形が見える。
「敵は我々の右舷方向に展開するようだ」
「五艘が横並びで、それが二列になるようですな」
 上甲板でアラビアの水夫たちと一緒に遠くの敵の様子を見ていた次郎と兵衛に、マンスールから船尾楼の甲板に来るようにとの伝言があった。
 船尾楼に上るとマンスールはいつもの、装いにアラビアの刀を下げていた。横の船長のイブヌルは銀色の兜に革の胸当を着け、上に白いマントを羽織っていた。
 イヌブルがアラビア語マンスールに何やら話した。
 マンスールはうなずいて、次郎に言った。
「ハジマリマス、ワタシノソバニ、イテクダサイ」
「わかりました。アラビアの戦さぶりを拝見しましょう」
 兵衛が前方を指さして、
「敵の右舷側の二艘が他より離れて前に出てきましたな」
「その後ろの二艘もそれに続くようだ」
 そのとき、乾いた爆発音が立て続けに三発、海に響き渡った。
 先頭のアラビア船が炸裂弾を発射したのだ。向かって来る海賊船に向けて威嚇の発射だった。高麗の海賊船のかなり前方で炸裂したようで、その付近の海面から白煙が風で流されている。
南宋の震天雷だな。鬼界ヶ島からトカラの海で見たのと同じだ」
「そうですか、私は初めて見ました」
「海賊はひるむ様子がないな」
「賊の二艘は左右の間隔を開きましたが、船足は落とさず、向かってきます」
 二艘の海賊船は先頭のアラビア船の両舷に分かれて通り過ぎようとしていた。そして、さらに、その後ろにもう二艘の海賊船が近づいていた。
アラビア船から見て右舷に展開していた六艘の高麗の海賊船は右回りに縦列回頭し始めていた。こちらと並走する構えだ。
先頭のアラビア船を左右に分かれて行き違った海賊船が次郎の乗った船に近づいてきた。
「手を振っておりますな。やや、何やら叫んでおります」
「なんと言っておるのだろう…」
「たぶん、停船するように言っております。済州とは少し違う言葉です」
 そのとき、前を走るアラビア船の船足がなぜか落ちて、後続船との距離が近くなった。マンスールは船長に指示をして帆風を抜いて距離をたもった。前の船からラッパの音がけたたましく鳴りだした。
「何が起きたのだ」
「先頭の船の舵板に障害物をからましたようです」
 アラビア船は綱で結ばれた大きな樽を四個ほど引きずっていた。
「海賊が大樽を結んだ綱を流したのだな」
 通り過ぎた二艘の海賊船はすぐに回頭していた。その後ろから続いていた海賊の二艘も次郎の乗る船の横を通り過ぎようとしていた。
「あの船も樽の綱を流したのでしょうな」
 船足が落ちた先頭のアラビア船は風下に流され始めていた。マンスールは船長のイヌブルと手短に打ち合わせて、次郎たちに説明した。
「テイセンシマス。ニセキハ、ヒナンシマス」
次郎は、うなずきながら聞いて、兵衛を見て、
「我らは停船するようだ。戦支度がない二隻の交易船は逃すようだな」
「そのようですな」
 マンスールの船からラッパが鳴った。停船の信号と、交易船二隻は離脱して独自に航海を続けて目的地に向かえとの信号だった。
 樽のからまった船とマンスールの船と二隻のアラビア船は帆を降ろして静かな海に漂った。二隻の交易船は帆を入れ変えて南西に進路を変えて離れていく。海賊船は追うことはしない。同じ風でそれを追うには船足が違い過ぎる。
 回頭した二艘の海賊船のうち一艘が先頭のアラビアの船に近づいて帆を降ろした。
 海賊船が先頭のアラビア船に接舷した。降ろされた縄梯子をつたって海賊が数人上っていくのが見える。
 次郎がマンスールと兵衛を見て、
「あの船には聖福寺の僧が二人おるので話し合うには都合がいいな」
「そうですが、話はできても判断ができますか…」
「そうか、采配はマンスールでないと、できんでしょうな」
 ほどなく、アラビア船から二人の聖福寺の僧と海賊が縄梯子を下りてきて海賊の船に移った。その海賊船は四丁の櫓を使ってマンスールの船に接舷した。
 高麗の海賊船は総数十艘、接舷した船をのぞく九艘は風上に移動して二列の横隊で定位置をたもっていた。
 聖福寺の僧二人と高麗の海賊が五人、マンスールの船に移ってきた。船尾楼に案内しようとしたが、海賊は拒否し上甲板での談合を要求した。マンスールとイヌブルは船尾楼から下りてきた。次郎と兵衛も続いた。
 五人の海賊のうちでは一番の年長者が丁寧な挨拶のあと話し始めた。物腰がゆったりして身なりがいい。頭には、やわらかそうな絹の被り物を着け武器は持たずに日焼けした笑顔が精悍だった。
 聖福寺の僧が通訳して、
「まず、我々は高麗の国の良民で、この海域の島々を高麗の王朝から安堵されております。この海の航行の安全を守るのは主命であり、船団を維持し兵や民を養わなければなりません。我々には徴税の役目があります」
 マンスールには通訳されても意味がわからない。
 次郎が代わりに話をつないで、
「それで、いかほどの帆別銭を払えと言うのですか」
 聖福寺の僧が高麗の海賊に通訳すると、
「積み荷の一割だが二隻が逃げたので、残った積み荷の全部だと言っております」
「料簡違いだな。首が飛ばぬうちに早々に帰ったがよかろう」
 聖福寺の僧はそのままの通訳をためらっていた。
年長の海賊が笑顔で、
「間もなく日が沈む、我らの慣れた海域は小島や浅瀬も多い。暗くなっては勝ち目はあるまい。我らには、まだ二十艘以上の戦船が待機している」
 マンスールが何やら言い残し、場を離れて船尾楼に駆け上がった。マンスールは前の僚船の船尾を見ている。マンスールの指示でラッパが鳴った。
上甲板で次郎のまわりにいた水夫が走りだし帆が上げられ始めた。前のアラビア船の船尾に手漕ぎの小舟が見えた。まとわりついていた大樽の綱を切りはなしたようだ。前のアラビア船が帆を上げ始めていた。
次郎は太刀を抜いて接舷していた高麗船の艫(とも、船尾)の舫い綱を切った。そして振り返って兵衛を見たとき、高麗船から繰り出した長柄の槍が次郎の右腿をつらぬいた。次郎はよれっとして海に真っ逆さまに落ちていった。兵衛が駆け寄ったが間に合わなかった。 
平成二十七年七月二日