ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

午前中はエッセイ教室だった。

エッセイのあと散髪に行った。

5時の予約を2時に変えてもらった。
第五週の金曜日で、七時からの居合の稽古はなかったからだ。

珍しいランの花が置いてあった。

コブラの形ににている。コブラ・ランというそうだ。


今日のエッセイはこんなだった。


栄西と為朝と定秀                       中村克博


 松浦方の二艘は船足をそろえて近づいてきた。  
 西の風は強くはないが追い風を満帆に受けた筵帆が朝日を正面から受けて輝いている。 
 二艘の隔たりは半町ほど(五〇メーター、五五尋)、太い綱を帆柱に結わえて互いの間に渡してある。
 ときに太い綱はたわんで海に浸かり、すぐに、びんと張られる。
 そのたびに二艘の小早船はゆれて帆柱が大きく左右にかしいだ。
 二艘とも盾板を船べりにめぐらしている。
 盾板から武者の姿がのぞく。三〇人ほどが胴丸をつけ薙刀を持っている。
 下知をまっていた惟唯が為朝を見て、
「左舷の敵に近づいて、水縄を雁股で断ち切ろうと思います」
 小早船の帆を引き上げている綱を身縄とか水縄とか呼称するが、その綱を弓矢で断ち切ろうと言っている。
 雁股と呼ばれる二股になった内側に刃がついている鏃の矢で射るのだという。
「うまく帆が落ちれば、おもしろいことになるな」
 為朝は了解した。
 惟唯は船頭に左舷の敵に船を向けるように指示した。
 為朝の乗る船は左舷に回頭をはじめた。
 碇綱で結ばれた高木の次郎の船も同時に舳先の向きをかえた。 
 為朝の乗る船は、左舷の後方について走る松浦の二艘の小早船の前を通過した。
 あとに碇綱で結ばれた高木の次郎の船が続いている。
 松浦の小早船は左舷に舵を切ったが、かわしきれずに高木の次郎の舷側と激しく接触した。
 ど〜ん、ばりばり、と音がした。
 そのとき五丁掛けの櫂を引き込むのが遅れた松浦の小早船は櫂が二本折れた。
 櫂を素早く引き込んで船足の落ちた高木の次郎の小早船は束の間、前の船に碇綱で引っ張られていたが、
ふたたび櫂を出して前にもまして力強く漕ぎ出した。
 惟唯は弓と矢を持って帆柱の前に立っていた。
 帆を上げていないので為朝のいる艫屋形からその様子がよく見えた。
 空が青かった。松浦の小早船に朝日があたって筵帆がキラキラ光って見えた。
 舵を持つ船頭が為朝につげた。
「筵帆が濡れていて、おもたいようです。それに、あの人数では荷が多すぎます」
「上が重すぎて、つり合いが悪いようだな」
 惟唯が弓を引きしぼった。
 矢が唸って飛んだ。
 雁股の矢は帆柱の先端にあたって身綱を切ったが帆桁は一尺ほど下がっただけで止まった。
「身綱は切れましたが、帆桁が風に押されて下がりません」
「風を抜かねばならぬな」
 惟唯が二の矢をつがえた。
 ふたたび雁股が唸って左舷側の手綱を断ち切ると、筵帆は半回転して、するすると落ちてきた。
 落下した重たい筵帆と帆桁は、盾板を倒して武者たちの頭上かぶさった。
 帆が落ちて船足がそろりとなった船は間もなく止まった。
 ところが帆柱には、太い綱が並行して走るもう一艘の船との間に結ばれている。
 動かなくなった船は左舷が強く引っ張られて傾き甲板に落ちた帆が海に浸かった。
「みごとで、ございます」
「あざやかだな」
 為朝の船は、みんなの顔がほぐれて水夫の中から歓声が上がっていた。
「や、やっ、もう一艘が、帆が落ちて止まった船からの綱に引かれ旋回をはじめました」
「帆を下げようとして間に合わぬようだな」
 帆をはらませて並走していた船は停止した僚船を軸にして、互いをつないだ太い綱に引かれ半町の径で右舷に回りはじめていた。
 その船には操船をもっぱらにする水夫がおらず、甲冑をつけた武者ばかりが薙刀や弓をたずさえて、ひしめくように乗っている。
「旋回する船の太い綱が松浦方の小早船を絡めております」
 為朝の船の右舷後方を走っていた三艘の小早船の帆柱に回頭する船の太い綱が巻き付いて、三艘をひとまとめにしていた。
 太い綱に引かれた船は半町(五〇メーター、五五尋)ほどの円周で回っていたが途中で三艘の小早船をからませたので
急角度で旋回をはじめた。
「や、やっ、松浦の船が沈みます」
 見れば。急角度に旋回しようとした小早船の帆柱が横倒しになって船は半分沈んでいた。
 惟唯が為朝のそばに来ていた。
「あっぱれであったな」
「ありがとうございます。しかし、片方が沈むなどとは思いませんでした」
「そうだ。わしも意外であった」
「いかがいたしますか、この勢いで封鎖を突破しようと思いますが」
「いや、できすぎだ。ここは、しばし引け」
「引くのでございますか」
「そうだ。帆を上げて薄香の浦に少しだけ引くのだ」
「かしこまりました」
 惟唯は一礼して、自分の弓を仕舞わせて船頭に帆を上げるように伝えた。
 船は旋回して帆をあげ、ゆっくりと薄香の浦の奥に進んでいった。
 櫂を引き込んだ二艘の水夫たちは休んだ。水を飲んで休んだ。
 為朝の二艘が反転して帆を上げると、それを見とどけてか、浦の口を封鎖していた軍船の半数ほどが一斉に帆を上げてむかってきた。
 距離をおいてついてきていた松浦の五艘の小早船とは近くですれちがった。
 松浦の五艘の小早船は櫓棚に人が出てゆるりと漕いでいる。
「浦の口を封鎖している船団と薄香の中の軍船は差配する役目がちがうようです」
「そのようだな」
「薄香の浦の小早船には武者が五人ほど、あとは水夫が十人ほどです」
「そうだな」
「冠は烏帽子で弓も持たずに、戦の支度ではありません」
 為朝の船は、さらに薄香の浦の奥に入っていった。
 大風を避けて一夜を明かした漁師たちの船が帰るのだろう。次々と出ていく。
 碇を入れたままの軍船もあちこちにいて、留守番の水夫がこちらを見ている。
 大きな外洋船に近づいた。手すりの近くに人がでている。
 帆柱が二本、高くそびえている。帆柱の見張り台にも人が、ちいさく見える。
「芦辺衆の船ですな。見事な船いくさでしたな」
 外洋船の手すりから大きな声が聞こえた。
 惟唯が見上げると潮焼け顔に朝日を受けた白い歯が見えた。
「は、は、戦はこれからです」
「我らは博多から宇久島に向かう途中、嵐で薄香に避難しました」
 なんと・・・惟唯は咄嗟、為朝の顔を見て船頭につげた。
「帆をおろせ、船を止めよ」
 船頭がすぐに大声で指示を出した。
「降帆、降帆だぁ〜。停船、停船、櫂をつけろ」
 後ろに続く次郎の小早船も櫂を一斉に海につけた。
 惟唯は為朝に意をつげた。
「この宋船は宇久島で我らと合流する手はずだったようです」
「そのようだな」
「この宋船に乗り移ろうと思います」
「そうか、まわりあわせがいいな」
 為朝は顔をほころばせて宋船をみあげた。
 惟唯は宋船の手すりに向かって話し始めた。
宇久島で待ち合わせ、薩摩の鬼界島に行くのは我らです」
「そうではないかと思っておりました。こちらにお移りください」
 宋船から大勢の水夫が、太い綱で編まれた網をおろした。
 大網は上りやすい縄梯子の役目をする。
 二艘の小早船は横に並んで宋船に接舷した。
 惟唯が乗り移る指示を出した。
 二艘の小早船からは武士たちが先に上り始めた。
 弓と矢、薙刀、銛などの武器もうつされた。
 為朝が宋船の甲板に下りたのを見とどけて、惟唯は自分の船頭につげた。
「みなも早く乗り移れ、小早船はおいてゆく」
 ところが、船頭は惟唯を見て、申し訳なさそうに、
「わしらは船に残ります。薄香の浦の奥にこのまま進みます」
「囮になると申すか、その必要はない」
「いえ、そのような、騙しはこのみません」
「詭道は流儀ではないか、ならば、なぜだ」
 惟唯は自分の推量に恥じたようだった。
「いえ、ただ、船をすてては・・・船を敵にゆだねることができまっせん」
 遠くを見ると、追ってきた松浦の軍船が次々と帆をおろし始めていた。
 櫂を出して浦の中を縦横に動けるように戦の体制をつくりつつあった。
 惟唯は為朝のいる宋船を見上げたが手すりには為朝の姿はなかった。
 惟唯は弓をとり、矢をつがえて船頭を見すえて静かにいった。
「いくさ場である。下知にしたがわねば成敗いたす」
                                平成二六年五月三〇日