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はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

先週、金曜日のエッセイ教室

先週金曜日はエッセイ教室だった。生徒さんが多くなって満席になる。

 

「花活け人」へのヨガを考える              中村克博

 

 

 今月の八日に若い女性たちが三人、八木山にやって来る。この日は十月の第二月曜日にあたり、体育の日で祝日になる。妻は友人の息子さんの結婚式に参列するために朝から家にいない。若い女性たちは、八木山のリンゴ園でリンゴ狩りをしたり、陶芸工房の青空間さんを訪ねたり、食事したり、南蔵院の涅槃像も見たいそうだ。なりゆきで僕がその案内をする役目を賜った。そのころは大型台風が朝鮮半島をかすめて通り過ぎた後なので天気もいいだろう。

 訪ねて来るお客さんたちは、妻の「いけ花教室」に通う生徒さんたちで、十一月に開催される教室の花展を運営するスタッフを掛け持つ花活け人たちだ。十一月の花展は住吉神社能楽殿で開催される。テーマは「木と花、木と器、木をいける」だそうだ。そのため今年の春ころから週末になると、日程の合う生徒さんたちが、多い時には十人以上が八木山の我が家に集合して、埋もれ木を探して山にはいって雑木林の藪をかき分け歩きまわった。久保白の湖底におりて枯れた倒木を乗り越えて、流木見つけてきた。足を滑らせて腰まで水に浸かった人がいた。僕もそのつど同行して、みんなが見つけた古木を運んだり、写真を撮ったりして手伝った。

 集まった埋もれ木や流木は、生徒さんたちがノコギリやノミを使って形をととのえて、ワイヤーブラシで磨いた。腰には蚊取り線香を吊るして埃まみれになっていた。思い思いに古木を組み合わせ、接地面を安定させたりと苦労しても新鮮な体験でみんな嬉々としていた。「女性はたくましいもんだ」と、あらためて思いなおした。

 花展の主役になる古木を、めいめいの生徒さんたちが用意できたのは春をすぎて、いよいよ花を生け込む作業を始めたのは夏になっていた。自分たちで山や湖から探して、運んで、作った古木の作品は、それだけでも見ごたえがあるオブジェになってシュールレアリスム時代の造形を思いうかべてしまう。自然と朽ちた古木に意図はないだろうが、出来た作品には、それぞれに生徒さんの思いが入っているようで意思があるように感じる。見入っているうちに、いろんな思いが浮かんでくる。そよぐ風、水のせせらぎか炎のゆらぎを感じる古木もある。天空に逆立つ鯱、扇をかかげる巫女、ギリシャ神話にあるサモトラケのニケの羽、竜巻に舞いあがる龍、ロマンチックに寄り添う桜の枝、などなと、はてない連想を誘われる。それに、奇抜なのに、肥え松の埋もれ木に江戸時代の鎖を巻き付け、大きなクサビをぶら下げた高さが二メーターを超えるのもある。芯だけになった大きな肥え松の古木を真っ黒に塗って組んだのもある。さて、これらの古木に、どんな花が、どのような工夫で活けられていくのか、住吉神社能楽殿に四十点もの作品が所狭しと舞い始めるのが楽しみだ。

 さて、そのような若い女性たちが八日に遊びにやって来る。結婚式で留守をする妻の代役をしなければならない。何ともうれしい限りだが、自分の子供たちより若い女性たちをどうエスコートするのか、妻は「ヨガを指導してあげれば・・・」とアドバイスしてくれた。そうかそれは、いい思い付きだと咄嗟に思った。妻は、さらに提案してくれた。「お昼は、あなたのカレーライスを振る舞ったら、どうですか」と言う。このサゼスションには即答できなかった。

 ヨガを始めて、僕は十年が過ぎた。六十歳のとき脳梗塞になって救急車で運ばれた。一ヶ月ほど入院して家に帰ってきたが、散歩で五十メーターも歩くと目まいがして座り込んだ。相棒のロットワイラーの雌犬が心配そうに顔を覗き込んでいた。原因が分からない。自転車なら遠くまで行けそうだと、キャノンディールの山道使用を買ってきてまたがった。しかし二メーターも進むと転んでズボンの膝が破れた。何度やっても乗れない。平衡感覚に問題があるようだった。

 ある日、娘がヨガ教室に連れて行った。一月ほどは半信半疑で気が進まなかったが、毎週一日、一回、一時間半ほどのエクササイズを始めて三ヶ月も過ぎるころ、効果が出てきたのがわかった。回数を増やして一年もすると損なわれていた運動機能はほぼ元通りになった。嬉しくなって、ヨガ教室に行くのが楽しくなった。ヨガが僕の日常に欠かせなくなった。

 高校時代の同窓会があった。僕の回復ぶりを見て、「ヨガを教えてくれ」という人がいた。その場で「五人以上の希望者がいればいいよ」と言ったら、すぐに五人の希望者がでた。以来、生徒さんの顔ぶれは変わったが、いまだに僕のヨガ教室は毎週一日のエクササイズが続いている。ヨガのポーズはほとんどしていないが、日常の生活習慣で、ほとんど使わない関節の稼働領域や筋肉や筋を動かして、血流を促進して元々の体の状態に戻すことを目的にしている。

僕の年齢になると腕が真上に上がらない人が見受けられる。肩から腕を伸ばして、耳たぶに触れて肘が真っ直ぐに上がらない。手を後ろに組んで伸ばし、体を前屈して腕が真上に上がらない。床に仰向けに寝て、足を天井に上げると膝が曲がって伸びない。正座をしたまま、真後ろに寝れない。このような症状は筋が短くなって、筋肉が硬くなって、関節の可動範囲が狭くなっているのだが、日常生活には支障を感じないので、気づかないうちに徐々にひどくなって問題になることがある。早く始めれば回復も容易だ。二年前だった。高校の看護科にヨガの講習を頼まれて出かけたが、彼女たちのかなりに人が高齢者に見られるのと同じ状態だったので意外だった。

人類も昔々の大昔は四つ足だった。それが二足歩行になって、地面に平行していた背骨が上下になった。一二個あるらしい脊椎の骨は下になるほど頭や腕やお腹の重さを集めて支えている。腰椎は五個あるが中年をすぎるころには、多くの人は骨と骨の間が狭くなったりズレたり傾いたりして腰痛の原因になる。それだけではない、胃や腸や肝臓などいろんな臓器が、四つ足なら腹の中でのんびりできたのに、縦に重ねられて下にあるのは重くて大変だ。おまけに動かないと血の巡りがよくない。代謝が悪くなるとどうなるか、医者に聞かなくても分かる。日常の生活で体の使い方が偏ってバランスも悪い。八日のヨガレッスンでは、まずは、これらのことを自覚して認識してもらおう。忘れてはいけないのは、呼吸だ。ヨガは呼吸が大切だ。ヨガは呼吸の仕方だと言ってもいいくらいだ。

これだけでも、一時間半では伝えられないので、日頃の姿勢の話もしようかと思う。首が前に傾くとどうなるか、背中が丸くなる。顎があがる。実演でそれを、やってみるとわかる。そして膝が曲がる。歩幅が狭くなる。ガニ股になる。少し大げさだが、それらを若いうちから自覚すると、姿勢に気をつけるようになると思う。生き生きして背筋が伸びて伸長が三センチは高くなる。

それから、食事のときも、本を読むときも、パソコンをするときも、花を活けるときにも、誰でも前かがみになる。腕組は後ろにはしない。肩も前に寄って、背骨が前に曲がっている。腰のあたりも曲がっているかもしれない。こんな姿勢を長時間続けると、それが毎日、毎月、何年もすると、するとどうなるか、考えてみる。肩がこる。首筋が硬くなる。もっと大切なことがある。胸がへこんで来る。凹んだだけ後ろの背骨が出て来ている。内臓が圧迫される。

ヨガをやれば、骨や筋だけではなく自分の体のことがわかって来る。呼吸の仕方がいろいろできるようになれば、血液の流れや呼吸や心の動きがわかって来るかも知れない。八日のヨガレッスンは「花活け人」のためのヨガを考えて提案しようと思う。どんなエクササイズになるのか、骨盤まわりと、股関節、それと、肩と肩甲骨の血流をよくするためのヨガを集中してやろうかと思っている。花活け人の想像力が活性化して一段といい作品作りが楽しめたらいいと思う。

平成三十年十月四日