ブログを体験してみる

はてなダイアリーの創設時期からブログを体験してみようと書きはじめてながい年月が経過した。

午前中はエッセイ教室にいった。

昨日は大荒れの天気だったが、今朝は青天の青い空だった。
夕方から居合の稽古だったが家に帰って休んでいたら頭がくらくらした。
居合の稽古は休みにした。

提出した原稿は


アテナの銀貨                      中村克博


高い船べりから、ひしめく敵兵が恐れを吐き出すように奇声を上げて次々に飛び込んでくる。それをイスラムの兵が槍で突くが倒れた上から人の群れが重なって怒涛のようになだれこんでくる。ついに槍では間合いが取れなくなり、剣で打ち合う食い込むような音と叫びが一つになってこだましていた。船尾楼の甲板でマンスールと兵衛が弓で矢を放つが、この勢いには意味がなかった。聖福寺の二人の僧とアラビアの船長と護衛の兵とは目の前の上甲板で繰り広げられる光景に声もなく見入っているばかりだ。宋船の船尾楼にも人がいるが誰もが敵味方入り乱れて斬りあう修羅場に目が釘付けになっているようだった。
鬼室福信に付き添う二人のアラビアの衛兵は本人の保護を言いつかり、行動は一切お構いなしとの指示を受けている。鬼室福信は先ほど次郎からもらい受けた寸延短刀を腰に幾重にも巻いた縄に差していた。宋船の船尾が近づいてきた。
鬼室福信は手すりを用心して乗り越えた。こちらの船尾楼の甲板は南宋の戦艦の後部上甲板より少し高いが、飛び降りるのに難はなかった。宋船の甲板に下りた。目の前に船尾楼に上る階段がある。その下をくぐり抜けると操舵室がある。扉は観音開きに大きく開いていた。扉の前方に離れて衛兵が五人ほどいるが眼下の白兵戦に耳目を注いでいた。そっと操舵室の入口に歩いていった。操舵室には朝日が横から差し込んで二人いる舵取りの顔が見える。そのとき、衛兵の一人が鬼室福信に気づいて顔を向けた。目が会ったが逆光で敵兵の表情はわからない。鬼室福信は落ち着いて無表情にうなずいてみせた。敵兵も軽くうなずいて元の姿勢にもどった。
アラビアの二人の衛兵が鬼室福信の行動に気づいたときには宋船の船尾は離れていた。次に近づくまで動きは取れなかった。
舵棒は水夫が二人掛で左舷側に押していた。鬼室福信は舵取りの前を横切りながら、南宋の言葉で「舵の効きがたりぬ、もっと押せ」と言った。そう言って舵取り二人の後ろから梶棒を一緒に押した。三人は声をひとつに力を合わせた。体が触れ合い舵取りの着古した衣服から汗のにおいが鼻をついていた。寸延短刀を静かに抜いた。刃を斜め横にして背後からに左胸に深く差し込んだ。男は低くうめいて崩れ落ちた。前の舵取りが異変に気づいた。男は目を見開いて鬼室福信の顔を見て自分の脇腹から光る刀に目をうつした。さらに押し込まれる刃を身をよじってかわし梶棒から離れた。よろめきながら前のめりに倒れた。声を出し逃げようと起き上がろうともがいた。外の衛兵は戦の音に注意がいって気づかなかった。鬼室福信は梶棒を右舷の方向に押すが動かない。肩を入れて体ごと押すが大きな梶棒はびくとも動かなかった。
宋船は風に押されてアラビアの船に船尾が接近していた。すぐにアラビアの衛兵二人が宋船に飛び移った。南宋の五人の衛兵がそれに気づいて斬りあいが始まった。アラビアの衛兵二人はおされ左舷の船べりに追い詰められたが、マンスールと兵衛の弓が立て続けに唸って、すぐに五人の南宋の兵は矢で射倒された。アラビアの二人の衛兵は傷ついていたが舵取り場に駆けつけた。
南宋の大きな戦艦が離れ始めた。梶棒が動いたようだ。離れていく船べりから後ろを押されて落水する南宋の兵が憐れな声を出している。南宋の兵は自分たちの船が離れていくのに気づかないようだ。
船はみるみる離れていくが船首は碇綱で結ばれているので南宋の戦艦は北を向いた。風が左舷から吹き込んで、ゆっくり前進してアラビア船を左舷に押すようになる。そのあいだに戦場は様相が変わっていた。南宋は兵の増援が止まりアラビア兵による一方的な殺戮が始まっていた。逃れるには海に飛び込むしかない。武器を捨ててとうこう投降する兵も多かった。

南宋の戦艦から投げ込まれていた碇が取り除かれた。碇に固定された石材の綱が切られ、軽くなった丸太の碇を船から離した。南宋の戦艦は西を向いて裏帆になっていた。南宋の戦艦から解放されてアラビア船はゆっくり東に動き始めた。西を向いてほとんど止まっている南宋の戦艦と右舷同士ですれ違おうとしていた。マンスール南宋の戦艦の舵取り場の様子を身を乗り出して見ていた。船長や衛兵が敵の矢を恐れて注意するが聞かなかった。舵取り場は西を向いて暗くて様子がわからなかったが、近くの南宋の兵隊がみんな舵取り場の方を向いて構えているのは、いまだに鬼室福信とアラビアの衛兵が舵を確保しているようだった。
船長がマンスールに何やら了解を求めるように向きなおっていた。震天雷を飛ばす用意ができたらしい。兵衛が上甲板を見ると三台の投石機に震天雷が設置され横に火縄を持った兵がこちらを向いて指示を待っている。南宋の戦艦の裏風が入った帆に向けて発射の準備を完了していた。みんなの目がマンスールを見た。いま震天雷が南宋の船に打ち込まれて帆に当たって落下して炸裂すれば上甲板は蜂の巣をつついたようになる。
マンスールは船長を見て顔を横に振っている。船長は、なおも何やら話すがマンスールは、きっぱり拒否したようだ。南宋の戦艦では弩弓を持った兵隊が十人ほどやってきて舵取り場に向かって整列した。号令が聞こえて矢が放たれた。すぐに剣を持った兵隊が舵取り場になだれ込んだ。南宋の戦艦と行き交うマンスールの目の前でそれはおこなわれていた。舵取り場の三人は引きずり出され海に投げ込まれた。マンスールは振り返ってしばらく見ていたが針路を南東に向けるように指示を出した。
先ほどの南宋の戦艦は体勢を立て直してマンスールの船の後を追いはじめていた。前方の彼方には南宋の戦艦とアラビアの戦艦が火箭や震天雷を打ちかけ合いながら進んでいるのが見える。そして、そのはるか先には待ち伏せにあったイスラムの二隻の輸送船が南宋の戦艦三隻と小舟からなる船団の攻撃を受けていた。マンスールは先ほどの戦闘での被害を見るために上甲板に船長をつれて下りて行った。
兵衛が一人つぶやくように、
「あの距離なら打ち損じはない、甲板に満載の敵兵は弾き飛んでいたでしょうに」
聖福寺の僧が、
「なぜ、マンスールは震天雷を打ち込まなかったのか、げせません」
 兵衛は空を見上げるように、
「鬼室福信をしずかに逝かせてやった、のではありませんか」
 先ほどから後方を見ていたもう一人の僧が、
「やや、南宋の戦艦が左へ転進しますぞ」
「風が南に変わりますな、横帆の船では向かい風の限界です」と兵衛が言った。
「追撃をやめ、反転して落水者を救うようです」
「風が出てきた、海が荒れますな」
 前方の彼方にいる南宋の戦艦とアラビアの戦艦も距離が離れていた。南宋の戦艦は南の風を右舷に受けるように東に進路を変えていた。アラビアの戦艦は南東へ、二隻の輸送船の救出に三角帆を鋭く立ててばく進していた。マンスールの船もその後を全速で追っていた。雨が降りだした。風はさらに強くなった。
 マンスールが船尾楼に戻ってきた。
「ジロウハ、ダイジョウブ」
兵衛が嬉しそう頭を下げた。それはそうと…、
「傷ついた宋の兵隊がかなり居るようですが」
「ミンナ、ウミニ、ステマス」
 聖福寺の僧が表情のない眼差しで、
「これからまだ、戦があります、仕方ありませんね」
 兵衛が抗議するように、
「いや、あれほどの大勢の宋人を、この時化た海に、そのような無体な」
「博多には連れていけません。このたびの密事がもれ一大事となりましょう」
 上甲板では、すでに宋兵の処分が始まっていた。二人一組のアラビア兵が動けない捕虜の手と足を持って次々と運んでくる。それを船べりから海に放り投げていた。動ける捕虜は手足を数珠つなぎにされ、いくつかの塊になって、うずくまっていた。抜き身の剣を持った大勢のアラビア兵が監視している。
 兵衛の声が大きくなって、
「しかし、南宋と博多は昔から、よしみが深いではありませんか」
「戦ですぞ、いくさに情をはさむと誤りましょう」
もう一人の僧が、
「あくまでもアラビア海商の単独交易、博多は預かり知らぬことです」
 話を耳にしていたマンスールが、
「ヒョウエ、ワカリマス、ヤメマショウ」
 白い布を巻いた頭が兵衛を見つめて何度も大きくうなずいた。そして、船長に何やら話した。船長は了解して階段を駆け下りた。それより先マンスールが上甲板に向かって大声を出していた。気づいた兵隊が船尾楼の方を一斉に見た。マンスールがもう一度叫んだ。海に放り込まれようとしていた宋兵が甲板の床に降ろされた。
「どうするのですか」と聖福寺の僧がたずねた。
「ワタシニ、カンガエ、アリマス」
 マンスールが船の進行方向を見た。雨が強く見通しは良くないが、三角帆のアラビアの戦艦が風上に鋭く切り込んで白波を引いているのが見える。そのすぐ先にアラビアの輸送船が二隻、宋の船に待ち伏せされて襲われている。 

 アラビアの輸送船の一隻は南宋の戦艦に捕捉されていた。鉄の鉤のついた綱がいくつもからめ捕るように投げられ敵味方の二隻は寄り添って南東の方向に流されるように進んでいた。もう一隻のアラビアの輸送船は南東の方角に自力で逃げ切っていた。ほかに二隻の南宋の戦艦がいたが風向きのために遠く東に霞んで見える。南宋の小型の舟が三艘いるが、みんな帆を降ろして手漕ぎの八丁の櫓を使って近くを遊弋していた。
結ばれた敵味方二隻の間に、後ろからアラビアの戦艦が舳先から突っ込んで行った。二隻をつないでいた綱がいくつか切れてアラビア船は二隻の間に挟まって止まった。衝撃に大勢の兵士が一斉に前につんのめって倒れ込んだが、三角帆が引き込まれていたので船の損傷は軽微だった。すぐに戦いは始まったが互いに強襲することはしない。雨が強くて火器は使えない。弓の応酬と小競り合いが続いていた。マンスールの船が近づいて減速した。宋の捕虜たちが南宋の小舟に向かって一斉に大声を出した。南宋の小舟が近づいてきた。聖福寺の僧が交渉して二人が
乗りこんだ。マンスールの船からはラッパが鳴りだした。小舟は二人を南宋の戦艦に運んだ。間もなくして南宋の船から引鉦が鳴りだした。戦はやんだ。 
平成二十七年九月三十日